クリスマスと縁遠い男子は、クリスマス女子に翻弄される

南雲 千歳(なぐも ちとせ)

第1話

「はあ? 『クリスマスと縁遠いもの』に付いて、その内容をまとめてレポートで提出し、教室で発表する!?」 

 県立東浜高校に通う3年の男子生徒の俺、こと成海隆一なるみりゅういちは、自分のクラスメートであり、同じ部活とバイト先の仲間でもある女子──有栖川ありすがわすみれが、今しがた口にした、そのが耳を疑う様な言葉に、思わずそう聞き返した。

「なあ、それが本当に、今度のグループ・ワークの課題なのか? 『クリスマス』じゃ無くて、『クリスマスと縁遠いもの』に付いてで合ってるか?」

 すると、彼女はその目鼻立ちの整った顔に、いつもの様な屈託の無い笑みを浮かべて、怪訝けげんに問い掛ける俺の疑問に答える。

「うん、そうなるかなあ……」

 マジか──。

「そ、そうか。なら、いんだが」

 そう言ったきり、俺は授業後でややぼんやりとしている頭を巡らせ始める。


 それは6月の終わり。

 丁度、プール授業が開始された初夏の頃。

 何だかんだで過ぎ去って行った高校生活最後の3年の春が完全に終了し、袖を通したばかりの制服の夏服もようやく板に付いて来た、そんな頃の、る日の出来事である──。


 俺こと成海隆一は、自分の部活──県立東浜高校の歴史の中でも最も新しい文化部である、推理小説研究部、略して推小研すいしょうけんの部室に行く為、学校の校舎内を歩いていた。

 今は授業も終わったので、各教室の窓の向こうに見える校庭には、そこで部活をしている運動部の生徒達の姿がちらほら見える。


 くだんの水曜日の6時限目に毎週予定されているLHRロング・ホームルームは、多くは学級クラス会など、何らかの用事をこなす為の時間だ。

 だが、普通の公立高校で高校生として学生生活を送っている限り、そう毎週の様に学園祭の催し物を決める議論をクラス内で行う必要がある、などと言う事は無い。

 なので、通常の場合、その時間は日本語字幕の付いた洋画を見たり、近くの海岸に出て行ってそこにいる生物の観察をしたりと言った、何がしかの特別授業に置き換わるのがつねだった。

 そんな特別授業の一環として、月に1度、クラス内の4人ほどの人数でグループを組み、その時々で違う各科目の担当の先生から出された研究課題をこなし、レポートを提出すると共に、LHRロング・ホームルームの時間にその発表を行うと言うのが、俺が3年生に上がってから新たに取り入れられた、この東浜高独自のカリキュラムだった。

 今回のグループ・ワークの課題は、先月行われた前回の成果を踏まえ、各グループごとに個別に与えられる事になっている。

 そんな具合なので、放課後、俺は同じ学校に通っている一年生の妹に少し用事があった俺は、今日の放課後に担当の先生から下達かたつされると言うその課題の内容を、同じ課題グループの一員である有栖川すみれに聞いて来て貰う事にしたのだ。

 そうして貰った結果──俺は、前回出された以上のその難問に頭を悩ませながら、部室へと向かっていると言うざまなのであった。


 先月、5月に出された課題では、俺の属していたグループは先生からの評価として、堂々の1番を獲得する事が出来た。

 だが、そのせいか、今回、俺達のグループに与えられた課題の内容は、前回よりも難易度がぐっと上がっており、上手くまとめる事が酷く難しい様に思える。

 幾ら考えても、来週水曜の6限目に、大勢のクラスメートを前に発表し無ければなら無いであろうそのレポートの具体的な内容が、浮かんで来無いのである。


 ──全く、何てこった。

 クリスマスと縁遠いものとか、そんな変な課題を与えた、学校では変わり者で有名な自分のクラスの社会科を担当する教師の事を恨めしく思いながら、俺は心の中でそう悪態を吐く。

「それにしても、テーマは『クリスマスと縁遠いもの』か。しかし、それって何だか、えらい抽象的なテーマだな?」

 幾ら頭を悩ませても、これと言った物は何も思い付かなかったので、ようやく、俺はそう言う。

「あはっ、それはそうかも知れ無いなぁっ。成海君には、グループワークの課題は、もっと具体的なテーマの方が、合ってたかな?」

 有栖川はそう言って、俺と同じ行き先に向かい、意気揚々と歩を進める。

「ああ、全くだ」

 武田信玄の騎馬軍団に付いてとか、流行のスマートフォン・アプリに付いてとかの方が、よっぽど具体的で出来上がりが想像し易い。

 あっけらかんとして、心配事や悩みなど何も無い様に見えるそんな有栖川の様子に、俺は顔をしかめて仕舞う。

 それにしても、お前は何をそんなに可笑おかしそうに笑っているんだ?

 取るもとりあえず、来週に予定しているLHRロング・ホームルームかんばしい成果を出す為には、どうしても出された課題テーマの正確な意味内容を把握して置かねばならないだろう。

 そう思った俺は、ご機嫌な有栖川に再度質問する。

「なあ、有栖川。その『クリスマスと縁遠いもの』と言う文の『縁遠い』って言葉だけどな? 正確な所を言うと、それって一体、どう言う意味なんだ?」

 有栖川はその俺の質問に対し、即座に明快な回答を投げて来る。

「それは、読んで字の如く、文字通り、縁が遠い、と言う意味なんじゃ無いかなあ……?」

 全く、何の説明にもなってい無かったが。

 この有栖川の、余りにもな循環論法じゅんかんろんぽうの回答に少し腹が立った俺は、その言わんとする所を改めて問いただす。

「だから、それがどう言う意味なのかと言う事を、俺は聞いているんだっ。今回、先生に課題の内容を聞いて来たのは、有栖川、お前だろう。そう言う役目を任されたからには、俺を含めて、グループを組んでいる他の奴に、もう少し課題の内容が分かる様に説明してくれ無いか?」

 全く、俺のクラスには、こう言う風に他人をイラつかせる様な女子しかいないのか?

 兎角とかく、そう言う傾向の高い有栖川や松原に比べれば、1年生の時からずっと一緒のクラスの、真面目で人当たりの柔らかい桧藤朋花ひとうともかが、俺の目には天使にすら思える。

 有栖川は後ろ手を組んで歩き、少し思案した挙句、こう答えた。

「うーん、そうだなあ……。つまり、縁遠いとは、関連が薄いとか、結び付きが弱いって意味じゃ無いかなあ?」

「ああ、そうか。それなら分かる。しかし、そんなお前の言葉の最後が疑問形なのが若干気になるが……。まあ、普通はそう言う意味だろうから、それは良いだろう」

「それから……後は、人間の性質を表す言葉として、結婚にえんが無い、出会いにとぼしい、などの意味もあるかな。あ、もしかすると、こっちの意味かも知れ無いなあ……」

「いや、そんな意味もありそうだが、今回の課題のテーマにある縁遠いと言う言葉の適用解釈としては、結婚とか出会いに乏しいみたいな、そっちの方の意味は却下だ」

「ん? どうしてかなあ?」

「人間の性質がどうとかって言うが、そもそも、クリスマスは人間じゃあ無いだろ? 有栖川に対してそれを今更説明するのは釈迦しゃか説法せっぽうだが、あれは12月の後半、24日のイブから25日に掛けて行われるキリスト教の行事だ。そんな行事や日付ひづけと結婚とか、そんな事をする奴が、この広い世界のどこにいる?」

「それもそうだなあ……」

「よって、その課題の文章は、有栖川が最初に言った『クリスマスとの関連性が薄い』と言う方の意味で捉えていはずだ。論理的に考えて、そう捉えるしか無いな」

「なるほどなあ……。日付と結婚する人はいない、か。まあ、4月1日と書いて四月一日わたぬきさんとか、12月と書いて十二月しわすさん何て名字みょうじも聞くけど、十二月二十五日と書いてクリスマスさん何て、私も聞いた事無いからあ……。うんうん。じゃあ、私としても、そっちの捉え方で、全く文句無いかなっ!」

 有栖川はひたすら上機嫌でそう言う。

 なら、お前が先生から聞いたと言う課題の内容を又聞きしているこの俺を、更に混乱させる様な事を言うな。

「……そうか。じゃあ、それで決まりだ。しかし、クリスマスと関連性が薄い物か。それだと何だかやっぱり、課題のテーマとしては、まだ漠然ばくぜんとしてるよなあ?」

「そうだなあ」

「例えばだ。ここに事物じぶつ……。そうだな、例えば、使い掛けの消しゴムがあったとしよう。で、それと縁遠いと言うか無関係な何て、考え付こうとすれば、それこそ幾らでも考え付けるぞ? 校庭の樹木とか、日光とかだ。他にも言うなら、例えば、バレーボールとかカニカマボコとか……色々沢山あるな。どうせレポートにしてまとめるんだ。俺としては、課題のテーマは、何て言うか……もっと、こう、具体的な物にして行きたいんだが……」

「う~ん、それは、今の段階では、ちょっと、難しいんじゃ無いかな?」

「そうか……。まあ、別にその『クリスマスと縁遠いもの』と言うテーマをそのままでも、聞き取りアンケート調査などにして研究活動を済ませて仕舞えば、レポートにして提出する事が出来無い訳じゃ無いが……。しかし、困ったな。そんなふんわりしとた、どうとでも捉えられる様な曖昧なテーマじゃ、質問された方も何だかキョトンとして仕舞って、折角アンケートを実施しても、その収穫は実り薄い気がするぞ。そんな事じゃ、俺達のグループが、のちの発表で優位に立つのは難しいな」

「成海君は、今度のクラス発表、そんなに勝ちに行きたいかなあ?」

「当然だっ。前回だって、俺達のグループは、クラスで1番を取ったんだからな。俺だって内申点は気にしてるんだ。来週の水曜の発表会までは時間もある事だし、やるからには、とことん突き詰めて、その可能な限り最大の成果を出すべきだろう」

「あははっ! 競争心が旺盛おうせいだなあ、成海君は」

 有栖川は、あたかも他人事の様に笑う。

「呑気な奴だな、有栖川は。今の時期、そんな事で良いと思ってるのか?」

 全く、お前も俺と同様、4年生大学を受ける受験生だと言うのに、社会科の特別授業で与えられた課題をないがしろろにして、俺の性格を批評してる場合か?

「なあ、有栖川。その……ご機嫌うるわしい所、悪いんだがな? お前も俺と同じ課題グループの一員なら、提出すべき課題に付いてもっと真剣に考えるか、そう言う気持ちになれ無ければ、せめて表向きだけでも、ちょっとはそう言う様子を見せてくれ無いか?」

「あはは、そんな風に見えたかなあ……? そう言えば、私も君と同じグループだったな。これは失敬」

「はぁ……。まさかとは思うが、発表内容を多くの先生方におめ頂いた、先月の事を忘れて仕舞ったんじゃ無いだろうな? お前も都内の名門大学に入学したいのなら、その入試で見られる内申点を稼ぐ為にも、俺達のグループはこの調子でクラスのトップを走り続けるべきだろ? 頼むから、しっかりしてくれ」

「ああ、それもそうかもなあ……。じゃあ、私も、もう少し真剣に取り組んで見ようかなっ。大事な研究課題の発表を適当でおざなりな事をして、内申点を低くされるのは、嫌だからなあ」

 最初からそうしろ。

 高校生活は、特に決まった終わり何て無い様な長い人生とは違って、基本的に3年間きっかりしか無いんだぞ?

 そう言う意味では、お前はやる気を出すスタートが遅過ぎる。

 課題も終わっていない内からそんな風なら、権中納言げんちゅうなごんである水戸光圀みとみつくにをモチーフにした旅の一行が登場する、時代劇のオープニング・テーマでも聞いて、そのたるんだ精神に気合いを入れていろ。

 若い時に流さなかった汗は、いつか涙となってその身体から出るんだ。

 長い人生、重ねて努力をする時がもしあるのなら、それは自分達が来春に大学入試を控えた受験生の身である、この今じゃ無いのか?


 俺は目の前の有栖川に強くそう言ってやりたかったが、我慢してその言葉を飲み込む。

 少し前を歩いていた有栖川は、クルリと振り返った。

「じゃあ、グループ・ワークの研究課題に付いては、とりあえず、部室に奈々美もいるだろうし、そこで、テーマを具体的に詰める話でもしよっかな?」

「ああ、俺としては、そうしてくれると大いに助かる。テーマが曖昧なままだと、いつまでもレポートの作成に取り掛かれ無いしな」

 有栖川はうなずく。

「うん、そうだなあ。でも、私としては、さっき成海君が言った様に、『クリスマスと縁遠いもの』、これをそのままテーマとして、アンケート調査をするのも面白いと思ってるんだけどなあ」

「ん? そうか? なら、俺が最初に質問するのは──。有栖川、まずはお前からだっ」

「え? 私?」

「そうだ。アンケート調査をするなら、今、そのリハーサルをして置こう。面倒だから、今、ここで答えてくれ。ああ、他の人にも聞くから、特に考え付か無ければ、適当でも良いぞ?」 

「そうかな? じゃあ、お言葉に甘えて、適当な回答で許して貰おうかな」

「じゃあ、早速さっそく質問だ。クリスマスとは縁遠いものを1つ答えて、それに付いて自分なりに思う事を話してくれ無いか?」

 有栖川はそこで立ち止まり、考え込む。

「うーん、クリスマスと縁遠いものかぁ……。そんなもの、この私にあるのかなあ?」

「おい、最初から適当に回答するな」

「適当って言うか、むしろ真剣に答えたんだけどな」

「ああ? じゃあ、お前は一体何なんだ? 年がら年中、家の中でサンタクロースのコスプレを着て過ごして、暖炉だんろの前に置かれたもみの木の下で生活しているとでも言うのか?」

「いや、そう言う意味じゃあ無くて……。ああ、日本語って難しいなぁ」

「お前は、如何いかにも海外から来たばかりで、まだ日本の事を良く知ら無い留学生か帰国子女の様な事を言うなっ」

「私って、これでも一応、帰国子女なんだけどなあ?」

「ああ、そう言えばそうだったな。だが、俺は以前、お前は中学生の頃まで日本で生まれ育ったと、お前の口から直接聞いた記憶があるんだが、あれは嘘か?」

「いや、それは本当の事何だけどな……。そもそもクリスマスって、12月には世界中で行われるから、必ずしも冬の行事とは限ら無いからなあ……」

「どう言う事だ?」

「うーん……英連邦王国、コモンウェルス・レルムの中でも、カナダとグレナダを除く殆どの国は南半球に属してるから、オーストラリアでクリスマスを迎えた事のある私には、例え今みたいな夏場の時であっても、南半球で過ごしたクリスマスの思い出を語る事が出来るって言うか」

 ユーカリの木の前で、コアラを抱き抱えて笑顔を作っている有栖川の姿が、ありありと脳裏に浮かんで来る。

 全く、有栖川は感心する程、インターナショナルな奴だ。

「ああ、なるほど。そう言う事か。確かに今、夏だしな。海外旅行をした事の無い俺には少々嫌味いやみだが、割と、面白そうな話だ」

「うんうん」

 そう言うと、不意に有栖川は、『ひいらぎかざろう』、英語でDeck the hallsと言う題名の曲を、楽し気に鼻歌で歌い出し、背を向けて歩き出した。

「ラン、ラ、ランラン、ラ、ラ、ラン、ララララ~ラ、ラ、ラ、ラ、ランッ」

 全く、お前は何を楽し気にクリスマス・ソングを歌ってやがるんだ。

 俺とお前は、学校での生活やオフでのバイトで気心きごころの知れた知り合いだからまだ良い。

 だが、しかし、この俺の様な付き合っている彼女などい無い、どちらかと言えばリアじゅうに属する男子生徒の前で、いたずらにそんなふざけた真似をしていると、場合によっては、そいつから逆ギレに近い怒りを買う事があるから注意しろ。

 俺は鼻歌を歌う有栖川の背中を見てそう思うと、何か馬鹿にされている様で妙に腹が立って来たので、自分も歌う事にした。

 スマートフォンの画面の電源を入れ、楽曲の購入サイトで検索して曲と歌詞をダウンロードする。

 俺がそこで見付けたのは、同じ曲のロック・バージョンだ。

 片耳にスマフォに接続したイヤホンを差し、歌い出す。

「Deck the halls with bought of holly、Fa la la la la la、la la la la! Tis the season to by jolly、Fa la la la la la、la la la! Don we now our gay apparel、Fa la la, la la la, la la la~」

 すると、有栖川は可哀想な小動物でも見る様な顔で、こちらを向いた。

「……ああ、成海君。課題研究はちゃんとやる積もりだから、そんなにヤケクソになら無くても、良いんじゃ無いかなあ?」

 俺は歌うのを止め、イヤホンを外す。

「あ? 俺、そう言う風に見えたか?」

「って言うか、それ、途中でDeck the hallsから、パッヘルベルのカノンに成ってるけどなあ……」

 俺は断固として反論する。

「良いんだっ。俺が今ダウンロードした曲はな、元々、そう言うアレンジ何だ。何しろ、曲名の最後に、括弧かっこきでロック・バージョンって書いてあったからな。そのカノンとやらがどんな曲だか知ら無いが、間奏かんそうの部分をクラシックで繋いでいても、曲としてちゃんと出来てるのなら、それはそれで結構な事じゃ無いか」

「ふぅん、そっかなあ。あ、そうだ、半年先のクリスマスには、君のアルバイトのシフトを入れて置こっかな。ああ、これで今年はきっと、これまでに無い楽しいクリスマスになるだろうなあ……」

 そんな事を言いながら、有栖川は朗らかな微笑を浮かべながら再び歩き始める。

 あ?

 何だって?

 クリスマスに、バイト──?

 ……何てこった!

「あ……。なあ、有栖川。その、何だ……。さっきの件だが、済まなかったな?」

「ん? 君は何か、私に謝る様な事をしたのかなあ……?」

「お、おい、そんな事を言わ無いでくれ。俺とお前の仲だよな? 何だ、つれ無いじゃ無いか」

「何だか、良く分から無いなあ……」

「ああ、ええと、そうだな……。済まん。気分良く歌ってた所を邪魔して悪かった。頼むから、先程の俺の非礼な行為を、許してくれ無いか?」

「私は全く怒っていないから、とりあえず、バイトには出てくれるかなあ」

 この初夏の頃に、季節外れなクリスマス気分を味わって楽しんでいた有栖川は、それを邪魔された事で怒り心頭の様である。

 これは、今から土下座して謝った所で遅いんだろうな。

 有栖川は変わらず鼻歌を歌いつつ、廊下を楽し気に歩いて行く。

「なあ、有栖川。頼む! 話を聞いてくれ! そうだ、許してくれるなら、何でもするから」

 ん?

 今、俺、何でもするって言ったか?

 そう聞いた有栖川は立ち止まる。

「ふぅん? 成海君、何でもしてくれるのかあ」

 くそっ、勢い余って、とんでも無い失言をして仕舞った。

 俺はこの立腹中の有栖川が、今しがた言った俺のその言葉を額面通りの意味に受け取って無茶苦茶な事を要求し来無いかどうか不安を感じつつ、次の言葉を待つ。

「さぁて、どうしようかなあ……?」

 彼女はそんな事を言って、ニヤニヤしながら思案する。

「あ、いや。何でもって言うのはな」

 と、俺が言葉のあやを解説し様としたその時。

「じゃあ……。私の気分を害したお詫びとして、イギリスはウェールズ地方の16世紀の歴史に付いて、詳しく話を聞いてくれるかなあ? 後で、電話でも良いから」

 お前は何を言っているんだ。

 そんな話を俺が聞く事に、お前の自己満足以外に何の意味があると言うんだっ?

 しかし、その内容が、今すぐここから飛び降りて死ね、とかじゃ無くて助かった。

「え? お詫びって、そんなんで、良いのか?」

「君が嫌なら良いけど……歴史は、嫌いかなあ?」

「いやっ、歴史は好きだ、大好きだ。お前の言うその16世紀のウェールズ地方に付いて、物凄く興味が湧いて来たぞ! 早く、その話を聞かせてくれ無いか!?」

 窮地きゅうちに陥った俺は、そんな心にも無い台詞を吐いて仕舞う。

 すると、彼女は嬉しそうにこう言う。

「そんなに聞きたいなら、しょうが無いなあっ。じゃあ、私はこの先数日、用事があって忙しいから、アンケートを聞いて回る仕事は、君がやって貰えるかな」

 てか、課題テーマの研究方法って、もうアンケート調査で決まり何だな……。

 しかし、それもまあ良いだろう。

 そこでダレそうになっていた俺は、何とか空元気からげんきを出し、ようやくこう言った。

「ああ、任せてくれ。きっと、満足する調査結果を上げてやるからなっ!?」

「そう。じゃあ、よろしく頼んだかなっ」

 そんな会話をしつつ──ようやく俺達2人は、自分達の所属する推小研の部室の前へと辿り着いた。

(了)

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クリスマスと縁遠い男子は、クリスマス女子に翻弄される 南雲 千歳(なぐも ちとせ) @Chitose_Nagumo

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