「精密義肢師」という仕事をしているクリフ。
彼は業界屈指の技術を誇るフィリップを師として、この仕事に従事しています。
それならば、クリフが作る義肢の精度も高いはずと読者は思うことでしょう。
しかし、出来上がったばかりであると思われる一本の義足は、顧客にキャンセルされてしまうのです。
キャンセルされた原因は「信頼関係が十分に築かれなかった」から。
義肢を注文する顧客たちは、それぞれ失った手足に対する思いを持っています。そのため、「精密義肢師」は顧客の気持ちに寄り添う必要があるのですが、クリフはそれができず、余計なことを言ってしまうようなのです。
このままではクリフは独り立ちができそうにありません。
そんなとき、師であるフィリップが、右腕が義手で元ピアニストのジャクリーンのところに一緒に行こうと言うのです。
しかし彼女はフィリップの顧客のなかでも、より一層気を使わなくてはいけない相手。クリフがまたいらないことを言ってしまったら、今度は師匠の顧客まで離れて行ってしまうことは想像に難くありません。
そのため彼は師の提案に気乗りしなかったのですが、師匠に促されてジャクリーンと会うことになるのです。
読んだ後、彼の持っている技術の高さと、本当の誠実を見ることができれば、きっと「信頼関係」というのは築かれていくものではないかなと、そんなことを思いました。
そして「ジャクリーンの腕」を通して、読者は二つの驚きに出会うことでしょう。それが何だったのか、気になった方は読んで確かめてみてはいかがでしょうか。
人と機械を題材に、自分とは何かについてのお話。
誰かに否定されたこと、人間なら誰しもあると思います。
他人からの批評ばかり気にしていたらキリがありません。息苦しいだけです。
現実での息苦しさを、主人公のクリフも味わっています。
自分の居場所のはずなのに、他の人はなかなか認めてくれない。
でも気づきは案外近くにあるもの。
自分にとって大切なのは何なのか、いま一度見直してみたくなる、そんなお話です。
師匠とその弟子クリフのコミカルなやり取りも簡潔で読みやすかったです。
短い中でどんでん返しがあって、最後まで駆け抜けられます。
驚きの隠されたお話、思わず「ええっ!?」と言いたくなる。
衝撃の事実、発見、みたいな、そんなお話を求めている人は読んでみてください!
不幸な事故で腕を失った天才ピアニストのジャクリーン・シャーウッド。
彼女の義肢を造る工房で働くクリフは、師匠フィリップと共に彼女の許を訪れる。
ピアニストの義肢を造る話、かと思って読み始めた。
題材は面白いし、冒頭の一文からとても良い。
面白い、あるいはしっかりとした作品を読む時に、
私はそこに特有の「空気」というものを感じる。
それがあれば安心してその作品世界に浸ることができるのだ。
気にせずに読み進めれば良い。
話のバランスも良く、人物もそれぞれ癖がある。
最後まで読み進めれば驚きと感嘆を得られるだろう。
しかし本作を最後まで読み終えた時、あなたはこれが人間と近未来の技術、あるいは機械についての物語だと知ることになるだろう。
そして尋ねるのだ。
「なあ、クリフ。君は最初から――」
まず、題材がめちゃくちゃいい!
機械への偏見。まだあまり掘り下げられていませんが、それでいてホットな話題です。
最近だと、AIが描いた裸婦画が5000万近い値で落札されたニュースがありましたね。その絵を「冷たくて暗くていかにも機械的に感じる」なんて言う人を見たことがあります。高性能義手で演奏するピアニストのジャクリーンの演奏に対する「面白みがない」という批判の声に、似たものを感じました。
だからこのSFは「自分たちとは縁のないフィクション」とは言い切れない気がします。だからこそ、あのラストは鮮烈ですね。自分も他人のことは言えませんわ。
この作品は、機械への偏見を揺さぶる力を見せつけてきます。それは、最後の瞬間まで。