【4】自白されましたけど、そういうことではなくて。
「やはり状況がわかっていないようだな」
馬鹿にされたと感じた私は小さく膨れる。
目的は不明だが、ロータルに捕らえられてしまったことは理解できた。それと同時に、私は自分がすべきことを思い出す。
「わ、わかるわけがないではありませんか。私は屋敷に戻って、両親に報告をせねばならないのです。私を解放してください」
「報告? なんの報告だ?」
見下ろされると怖い。ふだんから怖いと思っている相手に拘束されているのだ。私は自分を奮い立たせて、できる限り気丈に振る舞う。
「あ、あなたには関係のないことです!」
「関係がないかどうかは、聞いてみないとわからないだろう?」
そう告げて、彼は私の唇を指でフニフニと触った。温かくて硬い指先の感触が伝わってくる。
これは……素手?
ハッとして、相手を改めてまじまじと観察する。ロータルの格好は見慣れた騎士の格好ではなく薄めの部屋着だ。だから当然手袋もしていない。
ひょっとして、ここは彼の家……? え、待って。高位の貴族でありながら、騎士という職業を選んだのだとは聞いていたけど……この人の身分は……
ロータル自身のプロフィールを思い返そうとしたが、それよりも重要なことに気づいた。
恋人でもない異性に、直接肌を触られている!
「わ、私はヨハネス王子の婚約者ですよ! こ、こんなことをして許されるとでもお思いで?」
正確にはもう婚約者ではないだろうが、公式発表にはなっていない。パーティーの場で、ダンスの前にヨハネス王子からひっそりと私に告げられただけだ。周囲で聞き耳を立てていた者はいるかもしれないが、周知されるまでには時間がある。
強気の態度で話をかわそうとすると、ロータルはつまらなそうな顔をしたのちに私の顎をグイッと持ち上げた。
「俺は許されなくてもいいと思ったから、お前をさらったんだ。エルヴィーラ、お前と出会ったときから好きだった」
「は? 何をおっしゃって――んんっ⁉︎」
噛みつかれたのかと思ったが、これは口づけだ。口紅を舐め取られ、その感触に驚いている間に舌に侵入された。こちらが噛みつく隙を与えず、口腔内を荒らされる。
待って待って⁉︎ 口づけって、知ってるのと違うっ⁉︎
息苦しさの中にぞくりとする何かがあって、私は初めて覚えた正体不明のものに恐怖する。私の中で何かが生まれて変わろうとしている。
「んんんっ……‼︎」
抵抗しようにも、頑丈な彼の身体はビクともしない。筋肉で分厚くなった彼の胸を押し返していたはずの手はだんだんと力が抜けていく。
「随分と小さな口だな」
口づけをやめると、ロータルは短く告げた。
私は水面に顔を出した魚のように口をパクパクさせて小さく喘ぐ。酸欠で意識が朦朧としていた。
「まあ、その口には挿れるつもりはないからいいが」
「な、何を?」
「すぐにわかるさ」
返事があって、ニヤリと笑まれた。嫌な予感しかしない。この男は何をしようとしているのか――わかってしまったけどわかりたくない。私は認めるわけにはいかないのだ。
「ヨハネス王子とは寝たのか?」
「お、教えません!」
「じゃあ、身体に直接聞くか」
私に跨ったままのロータルはシャツを荒々しく脱ぎ去った。
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