【6】これだけでは済まされないって、そんな。



 私の頬に節くれだった大きな手が添えられる。気遣うように優しい手つきなのが、ごついその手に似つかわしくない。


「わ、私を娼婦か愛人のように扱いたいと……確かに、顔立ちや体型は男性的にはとてもそそられるものがあるそうですけど……まさかあなたにそういう目で見られていたとは……」


 幻滅した。この人に性的な目で見られているとは思わなかったのだ。

 下心を持って近づいてくる命知らずな騎士もいたけれど、ロータルはいつだって態度を変えなかった。そこに好感を持っていたのに。


 でも、出会ったときから好きだったなら、身体をほしいと思っても不思議ではない? ううーん……やっぱりわからない……


 あれこれ考えていると、ロータルのため息が耳に入った。


「お前な……どうしてそういう発想になるんだ? 今のところ俺には妻はいないし、婚姻歴もない。男性なら二十七歳で結婚したことがなくてもおかしくはないだろう? 仕事を優先してきたんだ。恋愛をする余裕もなかった」

「そうおっしゃいますけど、私のことを気に入っていたのでしょう?」

「そうだな。ずっと忘れられなかった」


 話はこれで終わりだとばかりに、熱烈な口づけをされた。口封じっぽい荒々しさから次第に甘いものに変化していくと、私の吐息も甘さを帯びる。


 ああ、だめ、呑まれちゃう……


 話を聞き出したかった私は暴れて抵抗するも、結局は押さえつけられて受け入れるしかなくなってしまった。流されるには、まだ早いのに。

 唇が離れると、すかさず言葉を挟んだ。


「ま、待って。私を愛しているなら、少しは言葉を――」

「注文が多いな」


 怒っているというよりもあきれているような声。この状況において、ロータルは想像以上に落ち着いている。


 欲しかったものが手に入りそうなときって、もっと興奮したり焦ったりして、ガッついてきそうなものだけど……変な人。どうしてこんなに余裕があるのかしら。私が逃げられないと確信しているから?


 彼の思惑が想像できない。


「私は言葉がほしいの。あなたの態度から気持ちが読み取れないから」

「優しくしているだろう? まだキスしかしていない。ドレスを脱がして、肌を触れあわせたいと思っているが、あまり急かすのもよくないからな」

「優しい? 女性に手枷をつけるような人が優しいとは思えないですが」


 私は右手を持ち上げて、ロータルに見せつける。鎖はそれなりの重量もあるので、動くのが億劫だった。


「それは逃がさないようにという意味合いよりも、お前が自殺しないようにつけたんだ。ヨハネス王子に何か言われて、泣きそうになっているのを見たら、よからぬことをするんじゃないかと心配で」


 ロータルはそう答えると、自身のトラウザーズのポケットから小さな鍵を取り出し、私の手枷を解いた。

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