【8】む、胸に……⁉︎



「ひゃっ……」


 形や肌触りを確認するように撫でられて、私はびっくりしてしまう。いきなりムギュッと掴まれるよりはいいのだろうけれど、こんなふうに触られることなんてないから意図も掴めない。

 ロータルは私のそんな反応を見ながら、ふっと小さく笑った。


「いい大きさだな」

「あ、あまり大きいとみっともないって言われますけど……」


 この国では大きくて目立つ胸は好まれない。だから、できるだけ小さく見えるようにドレスを着るのだが、それでも私の胸はほかの女性たちよりも自己主張が強く感じられた。表立ってあれこれ言われずに済んだのは、ヨハネス王子の婚約者だったおかげもあるのだろう。

 気にしている部分だったこともあって、褒められているのか否かわからずに返すと、ロータルにやわやわと揉まれた。


「そういうことを言うヤツはわかってないんだよ」


 ロータルの声は聞きなれた声よりもずっと優しく穏やかだ。大切にしようとしている雰囲気があって、強張っていた身体はほどよくリラックスしてきた気がする。彼に胸を揉まれているのに。


「少なくとも俺は、この大きさは好ましく思うぞ」


 好ましいと言われたのだから、喜ぶべきなのだろうか――そんなことがよぎったのは一瞬で、突然訪れた非日常によって冷静に考えられるような状態ではなかった。

 声を出すことを我慢できず、堪えるのに必死だったのだ。


「ついでに言うと、声も我慢するな。お前の声を聞かないと、加減ができない。できる限りお前の様子は気にかけるつもりだが、情報は多いほうがいいからな」

「は、恥ずかしい……」


 世の中の女性はこんな思いをするものなのだろうか。

 私は口元に手を当てて、泣きそうになるのを堪えながらロータルの与える刺激を待つ。


「ドレスを破るわけにはいかないから、そろそろ脱がすぞ」

「は、はい……でも、身体を見られるのは恥ずかしいから、暗くしてほしいの」


 脱がされることについてはもう諦めている。私だってこのドレスをボロボロにしたくはない。

 とはいえ、同性の使用人にしか見せたことがない裸体を彼にマジマジと見られるのは恥ずかしすぎる。脱ぐことを譲歩するので明かりを消してほしいと懸命に訴えると、ロータルは困った顔をした。


「そうはいかない。情報が減る」

「恥ずかしいの……」

「傷つけないためにも必要なんだ。俺の視線を感じなくていいように、目を閉じておけ」


 そういう問題じゃないと思いつつも、私がここでわがままを言ったところで解決はしそうにない。渋々目を閉じると、ドレスが引き抜かれた。


「全部脱がすからな。あとの着替えはお前付きの侍女に託す。俺じゃ着せきれない」

「わ、わかりました」


 私自身も一人では着られないのでありがたい申し入れだ。私が素直に頷くと、アクセサリー類を外されてコルセットや下着も取り払われる。

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