【2】ここはどこですか?
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目が覚めたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。
瞼をそっと開けて周囲に誰もいないことを確認すると、ゆっくりと上体を起こす。その拍子にジャラジャラと金属が擦れる音がして、自分の右手首に鎖が結ばれていることを知った。
どういうこと?
鎖を視線で辿れば、クイーンサイズだろう天蓋付きベッドの端にまで伸びている。ベッドに括り付けられているようだ。
待て待て。どういう状況よ? 私は予定調和的に婚約破棄されて、会場を出たはず……いや、出られなかった?
動くと腹部が痛む。それで自分が、大広間を出たところで何者かに襲われてさらわれたらしいという考えに至った。
ってか、ここはどこ?
カーテンが閉められていて、部屋はランプの光でかろうじて周囲を確認できる程度には明るい。この国のカーテンに遮光機能はないから、この暗さはまだ夜であることを示している。時間はそれほど経っていないのだろう。
調度品はどれも自宅のものよりも古いように見えたが、その全てが一級品だ。王宮内で見かけたものと同等クラス。高位の貴族のお屋敷に連れ込まれたか、あるいは王宮内のどこかなのか、といったところだろう。
自分の格好は深紅のドレス姿で、婚約破棄を言い渡されたパーティーで着ていたままのようだ。多少の乱れはあるが、アクセサリー類もそのままである。
となると、物盗りではなく、私自身に用事ってことかしら?
逃さないためなのだろう、右手首の手錠にはご丁寧に鎖が伸びている。それなりの長さがあるのでベッドからは出られそうだが、部屋を出るにはちょっと短い。
手錠には鍵穴がついているものの、当然ながら鍵は近くに落ちてはいない。鎖を断ち切るにしても道具が必要だろうが、それらの代わりになりそうなものは部屋には見当たらなかった。
誘拐……だとしても、もうヨハネス王子の婚約者ではない私には何の価値もなさそうですが。
確かに侯爵家の中でも資産は多い方だが、こんな犯罪行為でお金を集めてどうするのだろう。私にはよくわからない。
さてどうしたものか――と考えたところで、この部屋の扉がゆっくりと開いた。
部屋の外はここよりも明るいらしい。逆光で顔がよく見えなかったが、その大きなシルエットには見覚えがある。こちらに近づくにつれてその輪郭ははっきりとしてきた。
黒くて硬めの短髪はツンツンと逆立っている。セットしているわけではなく、本人いわく癖毛らしい。
目つきは鋭く、威圧感がある。その眼力で気圧されて逃げたり避けたりする人も多数。ヨハネス王子の護衛騎士としてはそれだけで充分な仕事をした。
彼は精悍な顔つきをしており、柔和な印象のヨハネス王子とは対極の印象だ。
対照的なのは顔立ちだけではない。体格もそうだ。彼はかなり筋肉質であり、背もあれば肩幅もあって誰から見ても大男である。私とは頭二つ分近く身長差があったはずだ。
一歩一歩と近づくたびにその大きさに圧倒される。足音とともに揺れを感じてしまいそうだ。
ああ、この人は――
ベッドのそばに立つころには確信していた。この人はヨハネス王子の護衛騎士、ロータル・ルートヴィヒだ。
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