第12話

「――照り焼き定食と唐揚げ定食、それからトマト煮をお願いします」

「注文承りましたー!」


 なんちゃって敬礼をして厨房へと注文を伝えに向かうシアさんの後ろ姿を見送り、視線を手元近くに展開された【ステータス】へと戻す。



名前:ユニティア・アーカイン・アストレイ(カムラ・レイベルグ)

レベル:351

種族:ハイエルフ

性別:男

年齢:327

職業:商人(エヴァンジェリン商会) 傭兵 聖王

状態:――

魔法:――

スキル:【変装】【習熟】【幸運】【交渉】

ユニークスキル:【友愛柔和】【麗魅誘惑】

ソウルスキル:【魔導叡智】【悪徳粛正】【第三視眼】【覇鬼武威】

称号:【救いを与える者】【救済者】【慈悲深き者】【遺跡暴き】【踏破者】【魔物殺し】【慕われし者】【保護者】【大富豪】【御使の祝福】【双貌の祝福】【霊獣の祝福】【偽善者】【死を振りまく者】【殺戮者】【聖王】【罪深き者】【年齢不詳】【性別不詳】



 まず一番上に来る〈名前〉だけれど……これはそのまま、自分の名前である。

 括弧の中に記されているのが偽名で、偽装系のスキルを習得している者はこの偽名を本名とすり替えることが可能であり、自身の【ステータス】を他人に見られるような状況――例えば冒険者となるための手続きの際などに役立つ。

 また、〈名前〉だけでなく〈レベル〉や〈種族〉といったものも偽装系スキルは改竄できる。

 他人の【ステータス】を覗き見るような看破系のスキルを持つ人間もいるため、その対策としても偽装系のスキルは優秀と言えるだろう。

 尤も、レベルや経験の差が著しければ偽装していても見破られてしまうことは多いので、そこは注意。

 ……おっと、いつの間にか偽装系スキルの話にズレている。

 修正、修正。

 次は〈レベル〉。

 単純に言ってしまえば、その者がどれだけの強さを持つのかを示すものである。

 とは言え、これは強さの指標の一つに過ぎず、レベルが下であっても上の者を倒すという事例は数多くあるため、目安程度に考えるのが妥当なところだろうか。

 ……実際、この〈レベル〉よりも〈スキル〉の方が勝敗を決める要因となり得ることが多いため、レベルが高いだけで一概に強いとは言い切れないのが現実である。

〈レベル〉は何らかの命を奪うこと、それらによる経験の積み重ねによって上昇する事がほとんどではあるけども、下にある〈称号〉や〈スキル〉といったものを取得することでもレベルは上昇する。


「ご主人様、ボクのレベルは5でした!すごいです?」


 自分のステータスを見ながら説明を聞いていたランがそう尋ねてくる。

 期待でワクワクしてるとこ悪いけど……。


「……5は年相応、かな」

「……そうなのですか」


 目安程度とは言ったけれど、割と命に関わってくるものだから甘いことは言えないのだ。

 シュンとした雰囲気で項垂れたランの頭を撫でていると今度はセイラが口を開く。


「私は13でしたが……これは何度か魔物を倒したことも考えると順当と言った所でしょうか。それでご主人様、レベルの数値で大まかな強さの分類などはあるのですか?」


 セイラは13か……。

 これは一般的な年齢の平均よりもかなり上の方だと言える。

 この歳で魔物と戦う生活をしていたのならばその高さも一応は納得できる。


「数値での分類ね……。うーん、僕の経験則で言うとなるとこんな感じかな?」


『1〜20……一般人レベル』、『21〜40……ほどほど冒険者・一般兵士レベル』、『41〜60……その筋のベテランレベル』、『61〜80……割と名前を知られるレベル』、『81〜100……傑物として名を馳せるレベル』、『101〜199……祝★人間やめました。一人で砦を攻め落とせるレベル』、『200〜280前後……人の形をした化物。一人で小国を攻め落とせるレベル』


「……って感じだね」


 かなり大雑把だけれど、レベルの大体の分類を聞いたセイラは小さく息を吐く。


「……そう聞くと、私のレベルも大したものではないですね。ところで……参考までにお聞きしたいのですがご主人様のレベルは?」


 涼しげな顔で何気なく放たれたその問い掛け

 に僕は固まる。

 正直に「351!」なんて言った日には二人からどんな目で見られるか分かったものではない。

 200〜280で“化物”呼びをしてしまったのだ。

 それを超えているのを知られてしまえば……まともな人間ならあまり近くに一緒に居たいとは思わないだろう。

 たしかに高レベルの存在が近くに居ることは安心感があるだろう。

 けれどその安心感は手元に武器がある安心感と似たようものであり、心の底から気を許せる安心感とはまた違ったものだ。

 二人に“物”のような扱いをされるのは僕は望んでいない。

 だから――。


「……86かな。そんな大したものでもないでしょ?」


 だから、小さな嘘をつこう。


「……それでも大したものだと私は思いますが?」

「そうです!ご主人様はすごいです!」

「あはは、二人ともありがとう」


 この幼い二人が本当の僕を受け入れてくれるその日が来るまで、この嘘がバレませんように。

 そう願って僕は優しく二人の頭を撫でる。


「……それで次の〈種族〉に関してだけど」


 さて、思考を切り替えて話を進めよう。


「ランは金妖狐、セイラは禍白狐、それで僕が耳の長いあの種族だね」

「ご主人様はエル――むぐぅ!?」

「……言葉を濁したということはあまり周りに聞かれたくないということです。この子はまったく……」


 ランが完全に言葉にする前に、隣に座ったセイラが口を塞いでくれていた。

 セイラは察しが良くて助かる。

 ランは……年相応に純粋という感じかな。

 口を勢いよく塞がれて抗議の視線を送るランと、細められた目で呆れの感情を放つセイラに苦笑しつつ説明を続ける。

 この世界には多くの〈種族〉が存在している。

 しかし、それらの元を辿っていくと“人族・エルフ・獣人・魔族・ドワーフ・精神生命体”の六種族へと集約されていく。

 例外な存在は全ての種族においてあるとしても、大まかに特徴を表記していくと以下のようになる。

“人族”はこれと言って突出した能力は無いが、致命的な弱点も無い万能な種族である。

 それ故に殆どの土地で順応して生きていくことができ、最も数が多いと言われている。

 過去の種族間戦争で勝利したこともあって数を増やし続けている。

“エルフ”も人族と同じように万能型ではあるのだが、それよりも更に高水準で万能型な種族である。

 どちらかと言えば身体能力より魔法に精通していると言えるだろうか。

 しかし人族とは違い、その絶対数は多くなく数は最も少ないだろう。

“獣人”は身体能力や強力な五感、そして動物の特徴を併せ持った種族である。

 基本的に魔法を行使することは苦手で肉体的な攻撃を得意としているが、逆に希少種には魔法を行使することに長けた一族が多い。

 ランとセイラはこの獣人の希少種であるため、魔法を扱うための素養は十分にあると言える。

 過去の種族間戦争で人間に敗北したため獣人の国はあるものの、数は以前に比べると減少しつつある。

“魔族”は身体能力だけでなく魔法にも精通する種族でもあるが、その反面それぞれの魔族種に絶対的な弱点が存在する特殊な種族である。

 それ故に、対策を立てられると案外と脆いとされ、希少種はそんな弱点に対して耐性を保持していたり、克服していたりすることが多い。

 魔族も獣人と同じく種族間戦争で敗北し、数を減らしている。

“ドワーフ”はエルフの逆で、魔法より身体能力が優れた万能型種族といったところだろうか。

 数は多くは無いが、近年では豊かな国のおかげか数を増やしつつあるとか。

“精神生命体”は天使、悪魔、精霊、そういったものの総称で、謎の多い種族である。

 基本的に特定の姿を持たず、気まぐれに現れる存在。

 これらの基本六種族から更に細かく派生したものがステータスの〈種族〉に表示される。

 ランであれば“獣人”の希少種の一つである“金妖狐”が。

 セイラであれば“獣人”の希少種の一つである“禍白狐”が。

 そして僕の場合は“エルフ”の希少種の一つである“ハイエルフ”……と言った具合に。

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