第11話

「――とこんな感じかな?」

「へー……」

「そう言うことだったのですか」


 対面に座ったランとセイラからの質問にたまに答えつつ、ある程度を話し終えた僕は小さく息を吐く。

 ……長々と話して正直ちょっと疲れた。

 これで大体のことは話し終えたかな、うん。

 椅子の背もたれに深く体を預けた所で相変わらず元気なランが質問を飛ばしてくる。


「……あっ!そうなのです!【ステータス】とかはどうなってるです!?」


 ……。

 ……あっ。


「……イヤ、コレカラハナソウトオモッテタンダヨ」

「……ご主人様」


 おっとぉ?

 セイラが僕のことを「おいたわしや……」みたいな目で見てきてるぞー?

 対してランは諸々を理解しているのかいないのかニコニコと笑っている。


「ご主人様は忘れん坊さんです?」

「……うぐっ」


 無邪気さ故の言葉って割と残酷な時ってあるよね!

 そっと胸に手を当てて傷ついた心を癒していると小さな声でセイラが言葉を零す。


「……良かったですね、ラン。そんな事をそこらの奴隷の主人にでも言った日には耳を切り取られていましたよ」


 怖っ。

 ボソッと小さく呟かれた言葉だったけれど、きちんとランも聞こえていたらしく両手で可愛らしい狐耳を抑えて涙目になっていた。

 ふるふると震えながら僕を上目遣いで見上げてくるランの瞳。

 ……ちょっとした悪戯心でセイラに便乗して潤んだその瞳からそっと目を逸らす。


「わぁぁああ!ごめんなさいです!!ごめんなさいです!!ボクお耳とばいばいしたくないですぅ〜!!!」

「いやいやいや!!冗談!!冗談だから!」


 ガチ泣き。

 これは……罪悪感!

「……なら尻尾は」、じゃないよセイラ!

 君のせいでちょっと落ち着いたランがまた泣き始めちゃったじゃないか!

 さてはワザとやってるなぁ……この子はまったく……。

 何とか宥め賺し――数分。

 ようやく泣き止んだ目元の赤いランと、何事も無かったかのような澄ました顔のセイラを連れてシアさんにダイマされた凪の小鳥亭へとやって来ていた。

 先程ランを泣き止ますために僕がとった手段はそう――食べ物で釣る事だった。

 そんな訳で約束……でもないけど、まぁ、それに近いものもあるし凪の小鳥亭で美味しいものでも食べながらを続きを話そうと言う流れになった。

 本日二回目の鈴の音を聞きながら僕たちは店内へと入る。

 店内の様子はもうすぐ日の暮れる時間帯という事もあってか、少し早めの夕食を食べに来ている人々で賑わっていた。

 昼頃の閑散とした様子とは打って変わって多くの客が席に座り、騒がしくならない程度の声量で談笑をしていたり、一人で静かに食事をする人が居たりと心地良い雰囲気を醸し出している。

 漂う料理の良い香りが空腹を刺激したのか、鼻をすんすんと鳴らしお腹に手を当てたランの様子に微かに笑みを浮かべていると、此方へと嬉しそうな声が掛けられる。


「いらっしゃいませー!来てくれたんですねユニちゃん!」

「えぇ、またシアさんに会いに来ちゃいました」

「嬉しいこと言ってくれますね!」


 配膳を終えて軽やかな足取りで僕たちの前までやって来たシアさんは「なでなでしてまげます〜」と言って僕の頭を撫でてくる。

 ……はい、慣れてますが何か?

 一頻り僕の頭を撫でて満足した顔のシアさんに一つ確認をする。


「……実はこの子たちと一緒に食事したいんですけど、大丈夫でしょうか」


 少し後ろの方で立ち止まっていたランとセイラを手招き、傍までやって来た二人の肩に手を置く。

 ほんの少しだけ申し訳なさそうな、眉尻を下げた顔を意識しての問い掛け。


「……」


 シアさんの視線はランからセイラと移り、最後に僕の元へと戻ってくる。

 そして一つ頷いて――。


「――全然大丈夫です!!ウェルカムです!」

「わぁ、良かったのです!」

「そうですね」


 どうやら凪の小鳥亭ここは奴隷や獣人などでも分け隔てなく接してくれるお店のようだ。

 ……だから不思議と居心地の良い雰囲気を感じるのだろうか。


「ふふ、なら可愛いお客様が三名様ですねー。此方のお席にどうぞ!」


 シアさんの先導の元、案内された席に座った僕たちはそれぞれが食べたい料理を注文する。

「それでは少々お待ちくださーい」と言って僕たちの席から離れ、厨房へと向かって行くシアさんを見送りつつお冷やを口に含む。


「冷たくて美味しいのです!」

「……さっきまで泣き喚いてたくせに、冷えた水を飲んだだけで笑顔になれるものなのですね」

「うぅぅ〜、セイラが……セイラがぁ……」

「バカにしてませんよ。ちょっと……感心しただけです」


 ランの恨みがましい視線をどこ吹く風といった様子で受け流すセイラ。

 ……既に何だかもうこのパターンにも慣れてきてしまった。

 そんな風に微笑ましいものを見るような顔をしていた僕にセイラは向き直ると静かに切り出す。


「……ランは放っておくとして、ご主人様、【ステータス】の話をお願いします」

「むぅ、ボクも聞きたいのです!!」


 再びお冷で口を潤してから僕はゆっくりと口を開く。


「そうだね。【ステータス】って言うもの自体は二人とも知っているとは思う。これは自分の情報をある程度簡略化して可視化するものだと考えてもらっていいと思う」

「自分の情報を可視化、ですか」

「……“かしか”?」

「目に見える形で、って言った方がいいかな?」

「それなら分かるです!」


 自分の情報を表すもの――【ステータス】であるが、これは基本的に自分しか見ることができない。

 これは魔力を持つ者であれば念じるだけでも展開可能な、しかし魔法とは異なる何か。

 試しに僕の【ステータス】を展開してみよう。



 名前:ユニティア・アーカイン・アストレイ(カムラ・レイベルグ)

 レベル:351

 種族:ハイエルフ

 性別:男

 年齢:327

 職業:商人(エヴァンジェリン商会) 傭兵 聖王

 状態:――

 魔法:――

 スキル:【変装】【習熟】【幸運】【交渉】

 ユニークスキル:【友愛柔和】【麗魅誘惑】

 ソウルスキル:【魔導叡智】【悪徳粛正】【第三視眼】【覇鬼武威】

 称号:【救いを与える者】【救済者】【慈悲深き者】【遺跡暴き】【踏破者】【魔物殺し】【慕われし者】【保護者】【大富豪】【御使の祝福】【双貌の祝福】【霊獣の祝福】【偽善者】【死を振りまく者】【殺戮者】【聖王】【罪深き者】【年齢不詳】【性別不詳】



 ……。

 ……称号の最後二つにいつの間にか見たことが無いものが加わってるんだけど。

 それはスルーしておいて。

 まずは一つ一つ確認して行くとしよう。

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