真実は小説よりも奇なり、です

 ブリテ革命は今から50年前、ブリテ国で起きました。当時の国王夫妻が暗殺されたのです。その衝撃は、カエルム国を始め近隣諸国を震撼させました。

「正確には、私の祖父と貴女のお祖母様の話が元になっています。小説の『ヴァロウ』は、今は無きブリテの『ワロー』伯爵のことです。名前をカエルム風に変えたのでしょう。貴女のお祖母様ーーフランシス=ド=ワロー伯爵令嬢は、ブリテ国公爵の庶子で、ワロー伯爵の養子です。傾国の白百合といわれ、私の祖父アレクセイ=ド=ペルトン伯爵の婚約者でもありました。ところがフランシス令嬢は国王に見初められ、祖父と婚約解消。公娼になった彼女は、ひっそり王子を産みます。貴女はその王子と先代ヴァロウの令嬢ーー現ヴァロウ伯爵の姉の、娘なのですよ」

わたくし、叔父夫婦の養子だったのですか。


「どうして自分の出自なのに、間違えて覚えていたのでしょう」

「ヴァロウ家でよく、フロース茶を飲んでいませんか?」

伯爵は、困った顔をわたくしに向けました。「食後にいつもいただいています」

「言いにくいのですが、フロースの葉を一定量口にすると軽い記憶混乱になる人がいます。体質なので全員ではありませんが」

「記憶混乱!!」

毎日のお茶が、そんな危険なものだったなんて! 

「落ち着いてください、大丈夫です。お茶の量を減らせば、徐々に記憶も元に戻ります。今度茶葉の適量を国へ申請します、これ以上被害が出ないように」


体中の力が抜けていき。足がもつれて、手袋をはめた掌とお尻が地面に付き。わたくし、お腹の底から、声にならない声が出てしまいました。

「ほっとしたら、腰が抜けてしまって……」

恥ずかしくて、死にそうです。こういう時は笑われたほうが、ましなのですが。


 アレクセイ伯爵はわたくしに手を差し伸べて、柔らかく笑いました。

「フランシス伯爵令嬢。私と一緒に、フロースの研究をしてくださいませんか?」

反則です、卑怯です。わたくしの顔が、火照ってきました。


アレクセイ伯爵はわたくしの手を取りました。もちろん、わたくしも彼の手をしっかり掴みました。ーー手袋越しで、少しがっかりしたのは、内緒です。


 わたくし達がガゼボに戻ると、召使いを含めた皆さまは、折り重なるように倒れていました。しばらくして目を覚ましましたが、春の陽気と気疲れのせい、と納得していました。

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