お転婆な悪役令嬢は、処刑を回避したい
ちひろ
わたくし、婚約内定と共に処刑が確定しました
ある暖かい春の日。お義母様ーーヴァロウ伯爵夫人から婚約者に内定したのが「アレクセイ=ド=ペルトン」伯爵だと教えられたわたくしは、頭を殴られたような気がしました。
だって、思い出してしまったんですもの。黒い髪に黒い瞳の黒伯爵、アレクセイ=ド=ペルトンと。その婚約者、フランシス=ド=ヴァロウーー銀の髪に紅い瞳の白令嬢の挿絵を。
この世界が、「フロースーー愛する貴方と」という小説の世界だ、ということを。
困りました、わたくしその中で「悪役令嬢」になっていて。アレクセイ伯爵の元婚約者として、最後処刑されてしまうのです。だから、彼と婚約したくないのですが。一応足掻いてみましょうか。
「お義母様、わたくしの婚約者候補は公爵家の三男だったと思いますが」
「それが、あちらは借金があって、候補から外しましたの」
「もう一人の、35歳の子爵家の長男は?」
確かとっても裕福でしたよね、と言いたいのをわたくしは堪えました。
「あちらは別の令嬢と秘密婚をしていたようでーー親切な方が手紙で知らせてくれました」
お義母様はふう、と一息ついてふくよかな体を反らせました。
「ペルトン伯爵領は田舎ですけど、ヴァロウ領特産の花『フロース』をお茶や香水にして売っています。高品質で、国王陛下もその手腕に一目置いていらっしゃるとか」
ええ、存じ上げています。小説の通りですもの。そのうち我がカエルム国の特産になりますわ。
「どうしたらいいんでしょう」
「どうしたも、こうしたもありません。もう決まったのです。お前ももう15歳、結婚してもおかしくない年でしょう。ペルトン伯爵の絵姿をご覧なさい。美丈夫でしょう。年も10歳しか離れていません」
お義母様は、若い娘が結婚を怖がっていると思っているようです。わたくしは絵姿を拝見して、血の気が引く思いでした。やはり、小説の挿絵と同じ方。
黒い髪は緩やかにうねって、肩まであります。少し吊り目で痩せていますが、高い鼻粱と固く結ばれた口は文句なしに格好いいです。処刑される運命になければ、わたくしも好意を抱いたと思います。
「まあ、ペルトン伯爵は常に黒いお召し物で、巷では『黒伯爵』だの『コウモリ』だの言われておりますけど。心配要りません、悪い噂は皆のやっかみです」
お義母様は上品な仕草でお茶に口をつけて
「それにお前の出自はペルトン伯爵もご存知です。お隣のブリテ国特有の容姿をしたお前を、あちらはお気に召したようです」
お義母様は舐めるような視線をわたくしに向けて、コルセットで締められたお腹を苦しそうに撫でました。タプっと腕が揺れます。この仕草はお義母様の合図で、「もう話は済んだ」ということです。
「謹んで婚約をお受けします、お義母様」
わたくしは自分の部屋で対策を練ることにしました。
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