無理矢理公娼にさせられて処刑なんて、あんまりです
小説「フロース」のあらすじを紙に書いてみましょう。
フランシス=ド=ヴァロウは庶子で、隣国ブリテのさる高貴な方と身分の低い令嬢の間に産まれます。すぐに父方の遠縁、ヴァロウ伯爵家に養子に出されます。ヴァロウのお家芸ーー薬草学を学び始め、15歳でアレクセイ=ド=ペルトン伯爵と婚約。1週間後、婚約式が結ばれます。
ところがこの式は茶番でした。式後の翌日から始まる「婚約公示期間」に、フランシスは国王の公娼に召されてしまいます。婚約公示期間が、「別の婚約者がいないか、重婚していないか」精査するため設けられたのをいいことに。
自動的に、アレクセイ伯爵とは婚約解消。
彼女はヴァロウ家に帰され、お呼びの時だけ王宮に上がるようになります。絶対王政で、国王には逆らえないご時世。
気を紛らわせるためにフランシスは、ヴァロウ家で栽培している白い花ーーフロースを元に、赤いフロースを生み出してしまいます。この赤い花が曲者で、お酒と混ぜると強い幻覚症状が出るのです。彼女は赤いフロースの研究にますますのめり込むようになります。
さらに不幸なことに、アレクセイ伯爵は新しい婚約者を作ります。
マリエン男爵令嬢。
この小説の主人公です。
妬みと悲しみでいっぱいのフランシスは、二人の中を邪魔します。マリエン男爵令嬢を貶め、中傷。赤いフロースで操った男に襲わせる画策をします。怒ったアレクセイ伯爵の申告で、翌年フランシスは処刑。
マリエン男爵令嬢は妻に収まって、夫婦二人三脚で赤いフロースの解毒薬を見つけます。二人は英雄として崇められーー酷すぎますわたくしの待遇!
以上。
わたくしは手鏡を取って、お化粧を落としました。何かしていた方が気が紛れますし。
鏡に青ざめた、素顔の自分が写っています。ブリテ国の血を色濃く引き継いだ髪と瞳が、わたくしは嫌いです。メイドは「お化粧しなくても色白で、お嬢様が羨ましい」と言いますが、少し垂れ目で低い鼻は子供っぽく見えます。真っ直ぐな髪質も整えにくそう。体付きも細く、腰はコルセット無しでもいいくらいです。
アレクセイ伯爵は(挿絵で思い出す限り)細身の長身。わたくしと並ぶと、親子のような……いえ、そんな妄想をしている場合ではありません。
少し考えて、アレクセイ伯爵にお手紙を書くことにしました。
お義父様はお人好しでお義母様の尻に敷かれていますし、義弟は12歳で幼い。使用人達はお義母様の息がかかっています。頼りになる方が家にいませんし、おまけに未婚で、デビュタントもまだ。箱入りで、友達もいません。
それなのに、後1週間しか猶予が無いのです。
こちらが駄目なら、あちらに断っていただきましょう!
持参金すらペルトン家に払えないと(ヴァロウ家の貧しさを訴えて)、わたくしを婚約者から外していただきましょう! 持参金の無い令嬢と婚約する奇特な男性は、いません。
わたくしの絵姿が事実とかけ離れた美女だといけませんので、現実は絵姿と違う。「わたくしは子どもっぽくて何も出来ない駄目な令嬢」と、しつこく申し上げましょう。
ついでにマリエン男爵令嬢の素晴らしさーー華やかで、豊満で、頭も良い(小説の描写しか知りませんが)と伝えておきましょう。アレクセイ伯爵の興味がマリエン男爵令嬢に向くか、「知らない令嬢を婚約者にあてがう不躾な伯爵令嬢は要らぬ」とペルトン伯爵家が判断すれば。婚約を解消してくださるかも。
親の顔に泥を塗ったと一生言われ、修道院送りになるでしょうが、処刑よりましです。
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