旦那様に溺愛されているようです

 2ヶ月もしないうちに、わたくし達は結婚しました。公娼の申し出もありません。


 今日は妻として大きな仕事ーーデビュタントがあります。デビュタントが終わると大人の女性と認められます。

 夜会ですので髪は結い上げ、大人っぽい緑のドレスです。旦那様は仕立てのいい黒の三つ揃いです。


「こんなに胸の開いたドレスを、人前で着なくてはいけないのですか?」

胸の小さなわたくしにとって、拷問です。

「よく似合っていますよ。他の男達には、見せたくない。挨拶が済んだら、早めに帰りましょう。私以外と踊る必要はありません。皆の対応は私がします。絶対私の側から離れてはいけませんよ」

旦那様の目が、暗く輝いて見えたのは、気のせいですよね。

「旦那様は、心配症ですね。過保護にならなくても、わたくしそこそこの対応はできますよ」

一応、令嬢の躾はヴァロウ家で受けています。

「ええ、そうでしょう」

あ、信用されてません。ため息をつきそうな顔です。話題を変えてみましょう。


「旦那様、わたくし1つ教えていただきたいことが、あります」

「なんです改まって?」

「昔会ったことがあるとお手紙で言っていましたが、記憶にありません」

旦那様はああ、とうなずいて

「5年程前になりますか。貴女、気絶したコウモリを手当したことがあるでしょう」

「申し訳ありませんが覚えていません。ヴァロウ領はコウモリが多いのです。気絶したコウモリが庭に倒れているなんて、日常茶飯事で」

「私は、偶然その場面に遭遇したのです。貴女は気づかなかったでしょうが」

それでは、木陰からご覧になっていたのですね。わたくしのお転婆ぶりを。小さい頃はよく、庭で遊んでいましたから。


「疑問は解けましたか奥方様? デビュタントが終わったら、私を『アレクセイ』と呼び捨てにできるよう、特訓しましょう」

「はい」

旦那様、お願いですから無駄に色気を振りまかないでください。体が硬直してしまいます!

 周りも見てください、使用人達が笑っています……


「旦那様、そろそろ出発しないと、デビュタントに間に合いません」

早く、馬車に乗ってしまいましょう。

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