第3話 ショタ好き変態女との出会い2

全身に鎧を着込んだ数人の男たちがいた。


男たちの腰には剣が携えてあり、体つきや纏う雰囲気から察するに、明らかに素人ではない。


「・・・えっと・・・いったい何事ですか?こんな山奥の家に大人数で・・・」


ドクは男たちを訝しんだ目で見ながらそう言った。


ドクの家は人里離れた山の中にあり、人がほとんど寄り付かない。


そんな辺鄙な場所に全身武装した男たちが来たのだ、怪しさ満点である。


(まぁ来るのがかわいい男の子だったらどんなに怪しくてもかまわないんだけどね)


そんなことを考えていると、ドアをノックした先頭の男が笑顔で返してきた。


「いやー実はここら辺に子供が迷い込んでしまったと親御さんから通報がありましてね、現在捜索している途中なんですが何か知りませんか?」


男は人の好さそうな笑顔のまま事情を話す。


普段どおりであれば男の言葉を信じ、少年の捜索に手を貸していただろう。


(そしてチャンスがあれば少年とスキンシップを取っていただろう)


しかし、今ドクの後ろにはいかにも訳ありげな少年がいる。


ドクがチラッと後ろを見ると、ショタは布団に包まって隠れていた。


やはりこの男たちに見つかるのは、ショタとしても避けたいことらしい。


(んーまぁまだあの美少年とイチャイチャしてたいしここは黙っておくか)


人としてあまりよろしくない判断によってドクは少年をかばうこととした。


「うーん・・・残念ながらそんな少年は見てないですねぇ・・・もしかしたらもっと山の奥まで行ったのかも・・・」


「・・・そうですか・・・それは残念です・・・ところで・・・




なんで私たちが探しているのが『少年』だとわかったのですか?性別は話していないのに・・・」






「ギクゥ!」


兵士は薄ら笑いを浮かべながら追及する。


「そ、それは・・・ほら!こんな山奥に遊びに来るなんて男の子ぐらいしか想像できないじゃない!?」


(頭の中が少年でいっぱいでつい口から出てきてしまったなんてとても言えない・・・)


ドクは目線をあっちこっちに向けてとっさにそう答えたが、兵士の目はいまだに疑っている。


「そうですか・・・では扉の近くになぜ子供用の靴が置かれているのですか・・・?」


「あ、それは趣味です。私サイズが合わなくなって捨てられた小さい男の子(12歳がベスト)の靴の匂いを嗅ぐのが好きなので」


「え?あ、・・・そ、そうでしたか・・・」


先ほどとは打って変わってまったく迷いのない返答から、兵士はこの言葉が真実であることを悟った。


そして今現在相対しているのが、超ド級の変態であることを理解した。


「そ、それではもし何かわかったら近くの兵士を呼んでください・・・それでは・・・」


これ以上ヤバイ女と関わり合いたくないと思った兵士が、玄関から離れようとしたそのとき




「ちょっと待ちな」




兵士の後ろから野太い声がした。


外に目を向けると森の奥からゆっくりと誰かが近づいてくるがわかる。


声の主は身長が2メートルほどある大男であった。


鎧を全身に着込んでおり、とてつもなく大きな大剣を背負っている。


雰囲気と周りに対する言葉遣いからおそらく兵士たちの上司であろう。


また、鎧の上からでもわかるほどその前身が鍛えられていることがわかる。


「どうにも匂うな・・・うそつきの匂いだ・・・」


大男はそう言いながらゆっくりとこちらへ近づいてく。


「デルバルト隊長!」


その場にいた兵士全員が大男に向かって敬礼をする。


(えぇ・・・?なにこれ?明らかに只者じゃないよこの大男・・・というかここまでして捜索されているショタ君っていったい何者なの?)


デルバルトと呼ばれた大男はドクの目の前にまで近づき威圧的に言葉を放った。


「女・・・正直に言え・・・この辺りでガキを見なかったか?」


その威圧感にたじろぎながらもドクは答える。


「いやー・・・さっきも言ったようにそんな子供みてな」




ゴオゥッ!




その瞬間、とてつもない轟音と共に風が吹き荒れた。


ドクがしゃべり終えるその時、大男は背中に背負った大剣をすさまじい勢いで振りぬいたのだ。


しかし、その剣がドクに当たったわけではなく、剣は完全に空を切っており、何か物体を切り裂いたわけではない。


そのはずであった。




メキメキメキィッ




そんな音を立てつつ、剣の切っ先に立っていた木の幹が粉砕された。


そう、男から数メートル離れた位置にある木が、だ。


「えぇ・・・?」


目の前で起きた理不尽、もとい不可解な現象に思わずドクは緊張感のない変なリアクションをしてしまった。


大男は変わらず威圧的な態度で言葉を放つ。


「俺は嘘つきが嫌いなんだ・・・次はないぞ・・・もう一度言う、ガキはどこだ?」


相手の男が冗談を言っていないのは目を見て分かった。


もしドクがもう一度嘘をつけば、この男は何の迷いもなくドクを切り伏せるだろう。


だが、かといってこんな怪しさ全開の集団にショタを渡すのも、美少年愛好家のドクとしては不本意だ。


(うーん・・・どうするかな・・・)


この場を乗り切るための策を必死で考えていたその時




「待って!」




布団から出ていつの間にかドクの後ろに立っていたショタが、外にも聞こえるほどの大声を叫んだ。


「隊長・・・あの子供が例の・・・」


「ああ・・・」


ショタを見た兵士がデルバルトにひそひそと小声で話しかける。


「その女の人は僕を・・・ええっと・・・助けて・・・くれた?恩人です!乱暴はしないでください」


まぁ実際は会ってすぐ襲い掛かってきた変態だったのだが、ややこしくなるので言わないでおくことにした。


「では・・・あなたはショタ様・・・で間違いないですね?」


兵士の男がゆったりとした口調で丁寧に聞く。


「はい・・・」


ショタもうつむきながら小さな声でそう答える。


「私共はさるお方の命によってあなたを探しに来ました・・・私共と一緒に城へ戻ってくださいますね?」


(様付け・・・それに城ってって・・・やっぱりこの子只者じゃないのね・・・貴族の子供とかかしら)


ドクは兵士の対応からおおよその予想をつける。




「っ・・・それは・・・」


ショタが何かを言いかけたその時


「俺たちも・・・一般人に迷惑をかけるようなことはしたくないんだがなぁ・・・」


デルバルトはショタの言葉を遮り、半ば脅すような口ぶりでドクの方を見ながら言った。


「・・・わかり、ました・・・」


「・・・」


ドクは自分が人質として扱われているのをすぐに理解した。


ショタが優しい少年だということは、会って30分も経っていないドクにもわかる。


この少年は自分を犠牲にしてドクを助けようとしているのだ。


ドクにはこの少年の事情は全く分からない、もしかしたらこの状況は特に深刻ではないのかもしれない。


しかし、一つだけわかることがある。


それはこの少年が何か大きな覚悟を持って行動していたということである。






「フン・・・これで任務完了だな・・・帰るぞ」


デルバルトは踵を返し、剣を背中の鞘へと戻し来た道を引き返す。


周りの兵士もデルバルトの後に続くように歩き出し、扉の前にいる兵士がショタへと手を差し出し言う。


「さぁ、行きましょうか」


「・・・はい・・・」


兵士につられショタが歩き出したその時だった。




「待ちなさい」




ドクが兵士たちにも聞こえるようはっきりと言い放つ。


その言葉にショタだけではなく、兵士やデルバルトも動きを止めた。


「おい貴様、いったい何のつもりだ」


兵士の一人が苛立ちながらドクへと近づく。


「どう見てもその子嫌がっているじゃない。いい年した男どもが子供によってたかって脅しをかけて恥ずかしくないわけ?」


「なんだと!この女!」


兵士が剣に手をかけようとしたそのとき


「や、やめてください!」


ショタが大声で兵士を制止する。


その声によって剣を抜こうとする兵士の動きが止まった。


「お姉さんやめて!僕は大丈夫だから!」


「・・・アタシは何人もの少年の顔を見てきたからわかるわ・・・あなたのその顔は大丈夫な表情じゃない」


言っていることは少しおかしいが、ドクの顔はいたって真剣だ。


「ダメだ!このままじゃお姉さんが危険な目にあっちゃう!」


ショタの言葉の通り、現在の状況はとてもか弱い女一人でなんとかできるものではない。


しかもドクの体はとても細く、簡単に折れてしまいそうだ。


「僕自身の問題で無関係な人を巻き込むわけにはいかないんだ!だから・・・」


ショタは涙目のまま大声で叫ぶ。


周りの兵士たちは予想外の状況に最初は驚いていたが、ショタの説得によって女が折れるだろうと思い緊張を解いていた。




だが、それは悪手であった。




「そう・・・じゃあアタシが危険な目に遭わず、無関係じゃなくなったらいいのね?」


ドクが笑ってそう言った瞬間であった。




フィン




風を切る音がした。


何かが空気を一瞬で切り裂く音だ。


そしてその1秒後。


「がっ・・・な・・・に・・・!?」


ドクの目の前に立っていた兵士が急に苦しみだし、


ドサッ


っと地面に倒れこんでいた。




「え?」




その場にいた誰もが理解できていなかった。


異様な光景にデルバルトでさえ目を疑っていた。


だが彼らがもっとも衝撃を受けたのは兵士が突然倒れたこと




ではない。




兵士の前に立っていた一人のか細い女の手に、剣が握られていたことに驚いていたのだ。




「それじゃあ美少年のために斬りますか!」

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