第9話 ショタ好き変態女との出会い8
「よし!わかったわ、お姉さんが一肌脱いであげる!」
ドクはとびっきりの笑顔で、平らな胸を拳で叩いてそう言った。
ショタは一瞬キョトンとした顔をした後、
「えっ?本当ですか!?」
全身を前に乗り出して驚きの声を口にした。
「当り前よ!カワイイ男の子が困ってるって言うなら、どんなことをしたって助けるのがアタシよ!」
「で、でもとても危険な戦いになりますよ!」
「大丈夫、大丈夫!カワイイ男の子のために戦ならアタシは最強の剣士になれるわ!」
仰々しく見せびらかすような仕草で、冗談っぽく言うドク。
しかし、彼女にとってはこれは本心に他ならないのだろう。
こんな冗談みたいな理由で彼女は戦えるということを、ショタはこの数時間で十分に理解した、
つもりであった。
「そう・・・どんなことをしても・・・ね」
「ッ!」
一瞬、ドクが見るだけで人を凍てつかせるような冷たい眼をしていた。
今日見たどんな表情とも違う、まるで別人のような眼。
気のせいかと思い、ショタが目をこすってもう一度見ると、そこには先ほどと同じようにニコニコと笑っているドクがそこにいた。
「あれ?どうかした?」
「え・・・?あっ・・・いや・・・なんでも、ありま・・・せん」
あの眼が現実のものであったのか、はたまたただの見間違いだったのかわからない。
だがこの一瞬の出来事から、ショタは自分の認識を改めることにした。
(そうだ・・・この人はすごくいい人なのかもしれない。でもこの人のことを全部わかったつもりになっちゃダメだ、ちゃんと向き合ってこの人のことをもっと理解できるよう頑張らなくちゃ)
そう、例え危機から救ってもらったとしても、欲望全開の変態女だというのがわかったとしても、しょせん会って数時間しか経っていないただの他人なのだ。
もちろん信頼しない、というわけではない。
今後、自らの家臣として信頼関係を築いていく上で、そういった努力が必要であることをショタはこの歳で理解している。
思考停止の手放しの信頼ではない、相手のことを必死で考え努力した結果生まれる関係性が王として今後重要になっていく。
しかし、ショタは思い知ることになる。
世の中には理解できない人種もいるということを。
「んーと、それじゃあ結論としてアタシを雇うってことでいい?」
ドクはそう言いつつ片手を差し出す。
「は、はい!もちろんです!」
ショタは喜びの声を上げつつ、差し出された手を握った。
「よし!じゃあ早速で悪いんだけど・・・報酬に関していいかしら?」
「あっ!そうですよね・・・もちろん!大切なことですし、僕もそれなりにお金は持っているんで!」
ショタはまだ王になっていないが、王族として使えるお金はある。
それなりと言っているが、それはあくまで謙遜であり、一般市民からすれば一生遊べる大金だ。
(まぁ・・・よっぽど吹っ掛けられない限りは大丈夫なはず・・・)
ショタ自身も戦士を雇う金額を調べ、それを大きく上回るお金を持ってきていた。
例えお金でなくとも、王族としての権利によって王になるならないに関わらず、ドクの願いをかなえられる自信があった。
だが、ドクが求める報酬はその予想をはるかに超えていた。
「じゃあ・・・もしその王位継承戦で勝ったら・・・今日の戦いも含めて報酬として・・・
ショタ君の初めてを頂戴!☆」
「・・・えっ?」
そう、彼女が望むのは”ショタ自身”だったのだ。
「は、初めてって・・・僕の?」
困惑し、信じられないという顔をしているショタに対し、
「だからそう言ってるじゃない!本当はさっきの報酬分のペロペロも今すぐしたいとこだけど、今回は我慢して報酬を貯めて一気にもらいたいわけ!」
ドクは高揚しながら、蕩けた瞳で話し続ける。
「い、いや、そんな・・・ぼ、僕の初めてなんかよりお金の方が」
「え?じゃあいくら払えばショタ君の初めてを貰えるの?その金額貰ってショタ君の初めてを改めて買うわ」
「いやそういう問題じゃなくてですね・・・」
じりじりとこちらに顔を近づけてくるドクの圧力に、ショタは思わずたじろいでしまう。
「アタシにとってお金なんて些末な問題なのよ。そう!大切なのは、この世の中にいる少年とどれだけ触れ合えるかということ!そのためにお金が必要なら集めるし、強さが必要ならいくらだって修行するわ!そしていつか・・・
キミみたいな美少年と合意の上でエッチなことをする!それが私の人生をかけてかなえたい夢よ!」
その目は本気だった。
例えそれがこの世界において、一般的に許されないことだとしても、この女性は本気でその夢のために人生を生きているのだ。
(ああ神様・・・なぜこの人にこんな邪な夢をお与えになったのですか・・・?せめて子供好きとかそういうレベルだったら素晴らしい人間なはずなのに・・・)
夢の方向性が少しズレてしまうだけで、人はこんなにも道を踏み外してしまう、そんなことをショタは思った。
何かに本気で打ち込める人間はというのは素晴らしい、誰かが言った気がするがこの人間を見た後でも同じことを言えるのだろうか。
そんな世の中の不条理さを頭の中で嘆いているうちに、目の前の悪魔はさらに迫ってきていた。
「さぁさぁ?どうするの?まぁもしこの条件を断るって言うなら、アタシは君と契約しないし、さっきの報酬分のペロペロはさせてもらうわ」
「えっ!そ、そんな!」
「当り前じゃない?だって私がアナタを助けたのは事実なわけだし、その分の報酬はもらわなきゃ。あ、もちろんペロペロ以外の報酬は認めないわ」
「くっ・・・」
これでショタの選択肢は二つに絞られた。
ここで無残にペロペロされるか、もしくは最強の剣士を配下にして純情を散らすか。
危険を冒してまでここに来たのはこの目の前の変態を雇うためだ、それを考えると雇う以外の選択肢はない・・・だが・・・
(これから王になろうっていう人間がこんな低俗な契約をしていいのか・・・?そもそも僕の初めてだって思い出に残るものにしたい・・・)
ショタは迷う。
王子と言えど未だ思春期の少年だ。自らの貞操や初めてをささげる相手にはそれなりの憧れや希望がある。
初めての相手がこんな変態では初体験がトラウマになりかねない、というか何をされるのかわからない。
だが
(でも・・・僕の初めてなんかで夢に近づけるなら・・・)
彼はそんな恐怖より自分の夢を優先できる一人の男であった。
「さぁさぁどうするぅ~?」
ドクはショタの周りを歩きながら煽るように話す。
一方ショタはうつむいたまま表情を見せない。
ドクにはその顔は笑っているのか、恐怖しているのか確認することができなかった。
(うーん・・・流石に少年相手にちょっと大人げなかったかなぁ・・・これで私にびびっちゃあ元も子もないし・・・もう一押ししてみるかな)
そんなことを考えながらドクは少年の決意を確認する。
「早く決めないと勝手にペロペロしちゃ」
「・・・わかりました・・・」
「お?」
ショタは顔を上げ、まっすぐドクを見据える。
その顔には恐怖は一切なく、決意を固めた表情のまま宣言する。
「もし継承戦で勝ったら・・・
僕の初めてをあなたに捧げます!」
その言葉を口にした瞬間、その場の全てが停止した。
ドクはピクリとも動かず、ショタもそんなドクをじっと見つめて動かない。
聞こえるのは風の音だけ、まるで二人の時が止まったような、そんな状態が十秒ほど続いた。
そして
その静寂は突然破られた。
「Foooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!」
ドクは突然右手の拳を天に高々と突き上げ、今まで聞いたことのないほど大きな叫び声を発した。
一体どうやってその細い体のどこからこれほどの大声を出しているのか、そんな疑問を持つほどその咆哮は周囲に轟いた。
今後人生最大の幸せが自分に訪れるとしても、ここまでの声は出せないだろう、そうショタは思う。
そんな人生の喜び全てを吐き出したかのような叫びが終わり、すぅっと息をゆっくり吸ったドクはゆっくりとこちらを向いた。
その顔は笑っていた。
だがショタがこれまでに見た笑顔のどれとも違う、どこか邪悪で、どこか妖しくて、どこか無邪気なそんな顔だった。
「・・・本当にいいの?」
「えっ?」
「口約束なんかじゃない・・・これは契約よ・・・」
先ほどとは一転、落ち着いた口調でドクは語りかける。
その急変っぷりにドクは少し怖くなった。
「もし本気でこの契約を結ぶなら、これから私はキミに呪いをかけるわ・・・契約を破ったとき罰が下る、そんな呪いを」
「ッ!」
目を見てすぐにこの言葉が本気であることがわかる。
先ほどまでの気さくで変なお姉さんではない、まるで愚者と契約する悪魔のような女がそこにいた。
契約内容はふざけているが、この女は真剣であった。
ショタはその瞳に少し気圧される。
きっとこの契約を破れば自分の身に想像もつかないような罰が下るだろう。
しかし
(本気なのは僕だって同じだ!)
真剣なのはショタだって変わらない。
例えどのような契約であったとしても、この少年の決意が変わることはないだろう。
「さぁ?どうする?」
ショタはそんな決意をもって言葉を返す。
「・・・契約するよ、僕のこの王家の血に誓って!」
言葉と共にショタは右手の拳をドクへと差し出す。
そして悪魔のような変態はその言葉を聞いて体中をゾクゾクさせる。
「うぅぅぅぅぅぅ!やっぱいいわぁ・・・ショタ君!アナタ・・・最高よぉ・・・」
そして次の瞬間、ドクは腰に納めた剣を目にも止まらぬ速さで抜刀し、差し出されたショタの手の甲を軽く切りつけた。
「イッ・・・あれ?」
切りつけられた瞬間ショタは一瞬顔を歪めたが、少し間を置いて右手が思っていたよりも痛んでいないことに気づく。
「契約・・・アタシはこの身が果てるまであなたのために戦うわ・・・」
そう言ったあと、ドクはこちらに目配せをしてきた。
この続きを言えということだろう。
「け、けい・・やく・・・僕は僕の目的を達成したあかつきには僕の・・・そ、その・・・初めてをドクに捧げます!」
そう言葉にした瞬間、切られた部分がピカッと光った。
右手に目を向けると思っていたよりも血は出ていなかった、だが代わりに何か文字のような不気味な模様が浮かんでいた。
「薄皮一枚ギリギリで切ったからすぐ治るはずよ」
「えっと・・・この模様は?」
「それは契約の証、契約が無事に成立すれば消えるわ。後で包帯渡すわね」
「あ、ありがとうございます」
先ほどまでドクから放たれていたどこか怖い雰囲気は消え去り、家の中で見たちょっぴり変で気さくなお姉さんが戻っていた。
(なんだか、コロコロと雰囲気が変わる人だな・・・)
ショタはドクの底知れなさを少し怖いと思った。
まるで何人もの人間が一人の中にいるような、そんな不気味さ。
そんなショタの思いを吹き飛ばすかのように、ドクは明るく言う。
「さて!これで契約も済んだわけだし、これからよろしくね!ショタ君!」
「は、はい!よろしくお願いします!ドクさん!」
二人は右手で固い握手を交わす。
だが握手しながらお互いの脳裏ではこれからについて考えを巡らせていた。
(フフフ・・・さぁて・・・まさかこんな街はずれでこんな美少年の初めてをゲットできる機会に恵まるなんて・・・グフフフ・・・これで契約を果たせば私はショタ君の・・・)
(これでボクの剣士を雇えた・・・でも勝ったら勝ったでボクの初めてをあげなきゃいけないんだよなぁ・・・いやいや!こんな報酬で雇えるなら安いもんさ!そう・・・こんなボクの)
(童貞を貰える!)
(初キッスなんて!)
そして二人の思惑は完全にずれていた。
こうして肋骨浮き出る貧乳剣士と金髪碧眼ショタ王子、二人の戦いが今ここに始まった。
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