第5話 ショタ好き変態女との出会い4

それはまさしく「舞」であった。


兵士の男三人がかりでドクに向かって剣を振るが、全く当たらない。

剣を振るう三人も決して素人ではない。

一人目の兵士がドクへと近づき剣を縦に振るう。

ドクはこれをヒラリと軽く後ろへ飛んで躱すが、その着地の瞬間を二人目の兵士が狙っていた。

一人目が剣を振るう前からこの動きを読んでいたのだろう、まさに戦い慣れている兵士の動きであった。

着地の一瞬の隙を見逃さず、二人目の兵士がドクへと剣を横に振るう。

だがドクはそれも読んでいたかのように、体を翻しギリギリで剣を避けた。

しかし体制は完全に崩れドクの細い体は完全に無防備になってしまっている。

そこへ三人目の兵士がドクの胴体へと向けて剣を振った。

迷いのない一閃がドクの体を切り裂くかと思われた。

ところがドクは自らの剣を下から静かに流れるように兵士の剣へ当て、その攻撃を逸らす。

そのまま倒れこむように脱力したままドクは兵士たちから遠のいた。

その動きには一切無駄な力が入っていないことがわかる。

真剣による斬り合いで、これほど落ち着いた動きができる人間がどれほどいるだろうか。


「はぁ~危なかった~」

口ではそう言っているが、ドクは余裕の笑みを浮かべ、汗一つかいていない。

とても命のやり取りをしているとは思えない顔であった。

「ッ・・・」

逆に周りを取り囲む兵士たちは、顔をしかめ、額に冷や汗をかく。

それもそのはず、三人がかりによる連撃を得体のしれない変態にいとも簡単に躱されたのだから。

その上、その変態の動きは今まで戦場で見たどんな剣士とも違う妖しく、美しい動きであった。

今まで戦ったことのない異質な相手に兵士たちは若干の恐怖を感じていた。

「ほう・・・」

デルバルトはそんなドクを興味深そうに見る。

(いままで数多くの剣術を見てきたが、あの動きはそのどれとも違う・・・なんだあの動きは)

「え・・・?」

ショタは目の前の光景いや、その動きの美しさに唖然としていた。

体つきはとても貧相であるが、どこか妖しい色気を感じる。

その手に持つ剣の禍々しさも彼女の不健康な色気を彩っていた。

彼の人生でかかわってきたどの女性よりも、彼女は美しいと思ってしまうほどだ。


その後も兵士たちはスキのない連携によって縦横無尽に剣を振るう。

が、ドクにはかすりすらしない。

それらの攻撃はすべてドクの体ギリギリを通過していく。

あと1ミリでも剣を伸ばすことができれば、あの青白い肌を切ることができるだろう。

しかし、その1ミリが届かない。

わざとそうしているかのように体のギリギリで剣を躱す。

躱しきれない時は剣を使って攻撃を逸らすが、この時も力を入れているようには見えない。

まるで相手の剣に自分の剣を添えるように静かに剣を振るうのだ。

あくまで力を逸らすことのみを目的としたその静かな動きがさらに彼女の舞を美しくする。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「あれ?もうこの程度で息切れしちゃうの・・・?だらしないわねぇ・・・」

追い詰められているはずのドクが一切息切れせず、追い詰めているはずの兵士たちは全員息切れしていた。

気づけばその場にいた兵士全員で切りかかっていたが、依然変わらずドクに傷一つつけることもできない。

「はぁ・・・くっそ・・・どうなっていやがる」

「まるで雲みてえにするりとこっちの攻撃を避けやがる・・・」

「くっそ・・・みんな落ち着け!全員が落ち着いて攻撃すれば今度こそ当たるはずだ!攻撃形態12でいくぞ!」

「「「「おう!」」」」

リーダー格であろう兵士が号令を出すと、兵士たち全員が一斉に動き出した。

全員がバラバラにドクの周りを走りまわる。

この動きで相手を攪乱させ、一斉に切りかかる作戦なのだろう。

一人や二人ならともかく、8人ほどの人間の動きを一斉にとらえることは難しい。

そして周りを走りまわる兵士たちの中から三人が一斉にドクへと切りかかる!

だがドクは眉一つ動かさず、静かにこう言った。


「じゃあそろそろ斬っちゃうね☆」


キンッ、という音が聞こえた気がした


その瞬間何が起こったのかわからなかった。

剣がドクの体に触れる直前、


切りかかった三人の男達全員が突然地面へと倒れたのだ。


「なっ!?」

「くっ・・・」

「やはり毒か・・・」

周りを取り囲む兵士達は驚くが、陣形を崩すことはしない。

相手が毒を使うことはわかっていたことではあるため、最初ほどの驚きはない。


だが

(この女・・・いつ毒を仕掛けた!?)

今回は驚きよりも恐怖が勝った。

一番最初に倒れた兵士の状況から推察するに、女が剣に毒を仕込んでいたことは想像できる。

最初にやられたダラスは完全に油断したところに不意打ちを仕掛けられたため、あっさりやられてしまったのだろう。

しかし今回は違う。


相手が剣に毒を仕込んでいることがわかって切かかった三人が一斉に餌食となったのだ。


(三人ともそれなりの手練れ・・・他に毒を仕込んだ武器を持っていたのか?・・・いや・・・まさか・・・あの一瞬で三人を切ったのか!?)

走りながらリーダー格の兵士がそんな恐ろしい予想を立ててしまった。

一瞬ではあるが、戦いよりも思考を優先させてしまったのだ。

ドクはその一瞬を見逃さなかった。

棒立ちの状態から突然前傾姿勢をとり、駆け出したかと思うと一瞬で油断したリーダーの兵士へと近づく。

「・・・は?」

兵士が間抜けな声を出すのと同時に、ドクは低い姿勢のままその手に持った禍々しい剣を振りぬいた。

そのまま兵士は地面へと伏す。

さらにドクは止まらない。

リーダーが倒れたことによって混乱した兵士へと近づき次々と切りかかる。

その場にいたデルバルト以外の人間は誰も彼女の姿を目でとらえることができない。

人とは思えない速度で、圧倒的な速さで剣を振るうその姿はとても美しく、恐ろしかった。

兵士たちは構えを整える暇すらなく次々と倒れていく。


さらに驚くべきは、全員かすり傷程度のダメージしか負っていないのだ。


そして兵士たちが切りかかってから10秒ほどでデルバルト以外の兵士は全員倒れていた。


「さて、あたしと坊やのイチャイチャタイムのためさっさと決着つけちゃおっか」

「・・・この変態が・・・」




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