親友。

 神様誕生の記念日とされている今日、人々は更なる熱気を帯び、街は妙な興奮感に包まれている。


 今日ばかりは私をいじめる人間達も、理由もなく殴り続ける人間も居ない。いつもは冷めた目で街を見ていた私も、今回の記念日ばかりは少し興奮していたのだ。そう、今日は……


 ――に会えるのだから。


 ボロボロの服を脱ぎ捨て、こっそりと隠し持っていた、ゴミ捨て場で拾った端切れが縫い付けられていない上等なワンピースを身に纏い、私はの家へと足を運ぶ。


 その子は、私の唯一の友達で、そして唯一の親友である。今日は親友と共に、幸せを買いに行くのだ。


 程良い胸の鼓動に耳を傾け、そして少し落ち着かせ、目の前の家の扉を優しく三度ノックする。


 少しの静寂の後、ゆっくりと扉が開く。瑠璃色の、真っすぐで柔らかそうな髪を垂らした親友が姿を現し、軽い挨拶を交わした後、家へと上がり込む。


「久しぶりね、調子はどう?」

「さぁ……良くなったり、悪くなったり。」

「そう…。でも今日は私達にとってとてもいい日になるわ。」

「ふふ、そうね。すごく楽しみ。」

「ちゃんと薬忘れずに飲んでた?」

「ううん、忘れちゃって飲んでない!面倒臭いし。」

「まったく…しょうがないんだから。」


 他愛もない会話をしてクスクス笑う。こうして二人で過ごす、それが私たちにとっての幸せの時間でもあった。


 だが、同時に彼女と会える頻度も時を過ごすうちに少なくなっていた。身体が弱く足が不自由な彼女は、家族にとってだった。彼女は生まれた時から不自由な生活を強いられている。


 神が皆を平等に扱うなら、彼女をこんな風にはしないだろう。


 彼女のサラサラとした髪の毛を眺めていると、ひとつ、名案が浮かんだ。


「そうだ!せっかくそんな綺麗な髪なんだから、ちゃんとお洒落しましょうよ。」

「えっ……でも私……。」

「私がやるから大丈夫よ!じっとしてて。」

「……ありがとう。じゃあ……」


 おもむろに彼女は立ち上がり、ベッドの横の棚の引き出しを開け、中から二つの同じ髪留めを取り出し、私に手渡す。


「わぁ…とても綺麗…!こんなのどこで手に入れたの?」

「今日のためにって先生がプレゼントしてくださったのよ。どうせならこれでお揃いの髪型にしましょうよ。」

「いいの……?それは名案だわ!じゃあ髪をかすから椅子に座ってちょうだい。」

「はいはい…ふふ、どんな髪型になるのか楽しみね。」


 私は彼女を化粧台の椅子へと座らせ、櫛で彼女の細い髪の毛を優しく梳かす。


 熱気につつまれ活気溢れる扉の外とは裏腹に、窓から光が差し込むその空間は、とても静かで穏やかなもののように感じた。

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