その愛が、その男を、……闇に落とす


 時代小説です。

 愛する人と駆け落ちし、出奔した滝川藤兵衛は、慎ましくも幸せな日々を江戸で送っていた。
 だが、そこに一筋の影が差す。その影に引かれるように、じわりじわりと闇に落ちてゆく藤兵衛。

 この短編の作者である筑前筑後さんは、もしかしたら現在の流行とは真反対のものを書き続けているのかもしれない。本作も、暗く、重く、息詰まるような迫力がある短編だ。
 だがそこには、他者に真似できない純度の高いダンディズムがある。
 これが世間一般にうけるかどうかは、ぼくにはわからない。しかし、こういったものを書ける時代小説家を、ぼくは他に知らない。