筑前筑後氏の作品を読み始めたのはかれこれ5年ほど前。他のサイトでの事。
当時から男の怜悧な色気と、一瞬の揺らぎを描くのに長けた、というよりなぜ商業誌に載っていないのだろうというレベルの作品を書いておられた。
実は意外と幅広く、現代に近い時代のものも書かれるが、真骨頂はやはり江戸期の、剣の宿命から逃れられない男の物語。
この短篇もそんな筑前エッセンスが十全に備わっている。
短篇と言えど性急にまとめてしまうのではなく、妻のために刃を振るっていた男が、剣を手に暗い笑みを浮かべるようになり、やがて『闇の足音』に追いつかれ、囚われてしまっていることに読者が思いを馳せるまで、十分な余韻に満ちている。
残忍で豊かな『死の舞踏』の好短篇。
時代小説です。
愛する人と駆け落ちし、出奔した滝川藤兵衛は、慎ましくも幸せな日々を江戸で送っていた。
だが、そこに一筋の影が差す。その影に引かれるように、じわりじわりと闇に落ちてゆく藤兵衛。
この短編の作者である筑前筑後さんは、もしかしたら現在の流行とは真反対のものを書き続けているのかもしれない。本作も、暗く、重く、息詰まるような迫力がある短編だ。
だがそこには、他者に真似できない純度の高いダンディズムがある。
これが世間一般にうけるかどうかは、ぼくにはわからない。しかし、こういったものを書ける時代小説家を、ぼくは他に知らない。