虞と虜は似ている。
愛は時に恐怖をもたらす。
《惜しみなく愛は奪ふ》というのは大正の文豪が語った言葉ですが、まさにこの短編小説に登場する彼の愛は《奪う》ものです。暮らしのなかの細やかなものを盗み、身体と経験を奪い、人生そのものを侵食していく。
読み終えた時に、読者のこころまで奪われてしまったのは気のせいでしょうか。それとも《彼》と著者様の為せる業なのか。
短時間で読めて、余韻は長い。いつまでもぐるぐると頭のなかに残る、なんとも魅惑的な小説でございます。皆様がたも是非ともご一読を。
虜になるか、虞になるか。はてさて、貴方様はどちらでございましょうか。