第3話 それはまるで風のように。

  駅のホームを風が吹き抜けた。

 電車を待つ人々は、コートの前をきつく閉じて寒さをやり過ごしている。


 田宮修一郎は、スマホから顔を上げると反対のホームからの視線に気が付いた。

丸く黒い瞳が印象的な、淡いブルーのコートがこちらを見ている。


――あれはインコ。


とっさに自分もフードをかぶり、両腕を少しあげて二回ほど小さく、ぱたぱたをしてみる。じっと様子を見ていると、3秒ほどおいてからブルーのインコが同じようにぱたぱたと羽を広げた。


通じた!


ぱたぱたぱた。

ぱたぱたぱた。


自分はちゃんとオカメインコに見えているだろうか。


ぱったぱった。

ぱたぱたぱた。


線路を挟んで大きなインコ同士の無音の会話が続く。


「ふ……」


愉快な気分になり思わず、田宮修一郎の頬がゆるんだ。

「三番線に電車が参ります、黄色い線の内側に下がってお待ちください」

こちら側だ。修一郎は少し残念な気持ちになりながらも、車輛の到着を待つ。




 一月後――。

 街のあちらこちらに、カラフルなインコたちが歩く姿が見える。 

あれはボタンインコ、こちらはオオハナインコ、あちらはコザクラインコ、というように。そしてその頭部にはみな、ぴこぴこと何かが時折楽し気に、立ったり引っ込んだりしていた。


 本人たちは、気付いてないらしい――のだが。



 その中を、長身のオカメインコと、小柄なマメルリハが肩を並べ歩いていた。それぞれの手には、豆腐柄のトートバックが下げられ、長ネギと白菜が顔を出している。


 「お鍋っていいですよね」

 「ああ、あたたまるよね」


 

 空には、丸いお月様。

 その頬はふっくらと。

 微笑んでいるような。

 


 

 

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街の洋服屋さん。 糸乃 空 @itono-sora

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