第55話 レノルと魔王復活(3)

 さて、無事に魔王様の顔を作ることに成功した私ですが、魔王様の体調が安定してくるにつれ、せっかく買った絵画版ですので、もっと色々な事に使ってみようと思い始めるようになりました。

 

 例えば同人誌の制作です。


 私は密かに、同人誌の力を借りて、魔王様の名誉回復をしようという試みを始めていました。


 その頃は、まだ魔王様を絶対的な悪として描く創作物が多い時代でした。


 しかし実際には魔王様はそのカリスマ故にいつの間にか王として祭り上げられ、それが人間から見ると驚異に映っただけで、これといった悪事を働いたわけでは無かったのです。


 もちろん自分の正体がバレてはまずいので、所々フェイクを入れたりぼかしたりはしましたが、魔王様やその周辺の四天王や十三将のメンバーをできる限り詳しく描きました。


 親しみやすいキャラクターとして丁寧に描くことで、人間の支持を広げようと考えたのです。


 この頃には美少女だけでなくイケメンやおどろおどろしいモンスター、ドラゴン、また背景なども描けるようになっており、その結果、私の描いた魔王軍ものの同人誌はそのクオリティ故にちょっとした反響を呼びました。


 こうして細々と魔王軍ものの同人誌を制作していた私ですが、そこへ転機が訪れます。


 投影機の発明です。投影機の発明により誰でも気軽に絵や漫画を閲覧できるようになると、魔王軍ものの同人誌の人気は爆発的な広がりを見せました。


 今や魔王軍ものは一種のシェアワールド化し、世の女性たちを魅了する一大ジャンルとなっていました。


 そしてその生みの親である私の元には、いつの間にかイラストの依頼も沢山舞い込むようになっていました。




「ねぇレノル、この本の続きは無いのか?」


 ある日魔王様が一冊の本を持って私のところにやって来ました。


 私はその本のタイトルを見てびっくり仰天してしまいました。


 その本のタイトルは『桃色学園パラダイス~チートな俺が学園でもハーレムまっしぐら~』


 ――私が表紙と挿絵のイラストを描いた書物ラノベではないですか!


 どうやら出版の記念に貰ったものを、その辺に置き忘れていて、魔王様が読んでしまったようなのです。


「さぁ、分かりません」


 できるかぎり冷静な顔をして答えます。


「え? でもレノルが買ったんでしょ?」


「行商人が適当に子供用の本を見繕って置いていったので、私も詳しくは分からないのですよ。今度行商人が来たら聞いてみてはいかがですか?」


「ふーん、そうか。それじゃあ、次に行商人が来たら教えてくれ」


 そう言って去っていく魔王様。

 良かった。どうやらその本の表紙を書いたのは私だとは気づかれていないようですね。

 

 あんな恥ずかしいタイトルの書物ラノベの表紙を私が描いているだなんて知られたら、一生の恥です。


 だけれども、私はこの時はまだ知らなかったのです。


 ――まさかこの書物ラノベがきっかけで、魔王様が「学校に通いたい」などと言い出す日が来るとは!






「おや、これは何の騒ぎですか?」


 私が昔を思い出しながら購買に向かっていると、何やら人だかりができているのが見えました。


 不思議に思いクザサ先生に尋ねると、彼は眉間に深い皺を刻みながら言いました。


「生徒達がこんなものを発行していたのだ。全く、神聖な学園新聞を使いグラビアだの袋とじだの嘆かわしい」


 深いため息とともにクザサ先生は購買に残っていた学園新聞を没収していました。


「手伝いますよ」


 何となく気になった私は、クザサ先生を手伝うフリをして学園新聞を法衣の中に隠し持ち帰りました。


「どれどれ」


 人のいない保健室で学園新聞を広げます。するとそこには、勇者の息子――いや娘のグラビアが載っているではありませんか。


「……やっぱり、あの金髪クズ野郎にそっくりですね」


 いらいらしながらページをめくると、噂の袋とじとやらを見つけました。


「どれどれ」


 慎重に袋を開けると、そこには世界中のどんな星や花がが束になっても叶わないほどの可憐な美少女が佇んでいたのです。


「ああ……!」


 思わず感嘆の息を漏らし、椅子から立ち上がりました。


 さすが私が作った最強の美少女こと魔王様

……!


 そしてしばらく部屋の中をウロウロと行ったり来たりすると、もう一度袋とじの中を確認し、その姿を目に焼き付けると、中に入っていたものを自分の胸ポケットに入れ深呼吸をしました。


 なんと素晴らしい……!



 頭の中に、イマジネーションが湧いてきた私は、絵画板に向かいました。


 そこには『お兄ちゃんはロリのもの!~妹が俺を好きすぎて困る件~』の新刊の表紙にしようと描いていた絵がありましたが、私はその作業を中断すると、新たな絵に取りかかりました。


 新たな絵は、魔王様が女装をする姿を描いた漫画です。


 私は同人誌仲間に連絡をとると、次のイベントでは、魔王様女装アンソロジーを描こうと呼びかけることに決めました。


 魔王様ショタ化アンソロジーと魔王様学パロアンソロジーが好評だったので、これもきっと受けるはずです。


 私の人生は、すっかり創作に染まっていました。


 それもこれも、全部魔王様のおかげです。

 魔王様、ありがとうございます。


 私は胸ポケットの中の美しい人にお礼の言葉をかけたのでした。



【レノルと魔王様復活 完】

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魔王様は落第寸前! 深水えいな @einatu

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