月のライン 8-4


 オープンカフェで紅茶を飲みながら、町の通りを見ていると、じつにさまざまな人が行き交っていることに、気がついた。


 杖をついたお爺さんや、にぎやかにたわむれる子供たち。


 木材を運ぶ大工。


 釣竿を下げた漁師。


 肌の色の違う人々。


 写真を撮っていく人。


 スケッチをする人。


 知り合いと出会い、急に立ち話をし始める人……。


 同じような毎日でも、1日として同じ日はない。


 見ていて飽きないな、とメルは思った。


 町の魅力は、家々の建築美だけじゃない。


 そこに住まう人々や、訪れる人の一人ひとりも、この町の一部として魅力があるんだ。


 カップをテーブルに置きながら、ふとメルは腕時計を見た。


「わっ、いけない」


 まだ配達が残ってたんだ。


「ごちそうさま!」


 オープンテラスから、開いたパン屋の入り口に向かって声をかけると、中で接客していたミリが振り向き、メルに大きく手を振った。


 弾むような足取りで駆け出すメルも、多くの人たちと同じ。


 この町の景観の一部になっていた。




◆ E N D

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月のライン リエミ @riemi

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