月のライン 8-3
リカはレジカウンターの前に立ち、商品の在庫表に目を通していた。
「店長、そろそろイースターエッグを仕入れたほうが、よくないですか?」
店長は店のすみに、大きな全身鏡を置き、自分に似合う服はどれか、店中の洋服をあてて見ていた。
足もとには色鮮やかな布や、たくさんのハンガーが散らばっている。
「うーん? 3月まであと2ヶ月もあるのにー?」
伸びたような声を聞き、リカは額に手を当てた。
「季節の先取りをして、商品の買い付けをしなきゃいけないんです。今月から、町への寄付も行うことにしたでしょう? 売上げの一部を、って。赤字だけはイヤですからね。お給料も、しっかり払ってもらいます」
強気に喋るリカだったが、店長はどこか、うわの空。
鼻歌など歌いながら、鏡の前で一回転して、衣装をチェックする。
もともとこれも、店長の好みで仕入れたものだ。
好きなものに囲まれて、店長はいつ見ても、幸せそうな人だった。
リカは両腕を組んで言った。
「これから私、本土に行く用があるんですから。寄付金のパーセンテージくらい、ちゃんと決めておいてくださいよ」
アクアアルタから浸水の被害をなくすため、防水壁を建てる費用を、島の住民は、寄付金として集めることになったのだ。
寄付するかは強制ではない。
しかしみんな、この町に住み続けたい気持ちがあるので、それなりの額が集まるはずだ。
数十年以内には、アクアアルタのあの光景を見ることは、もうなくなるだろう。
しかし歴史として語り継がれる。
観光地としても、これから先、やっていけるに違いない。
「ボーイフレンドのとこに行くの?」
突然の店長の問いに、リカはあわてた。
「ち、違います。買い付けです。ロイのとこへは、ついでに、様子を見に行くだけです!」
店長は「もー、かわいいんだから」と言って、低い声でクスリ、と笑った。
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