月のライン 8-2


 ホテルの大きな窓ガラスを、キトは掃除していた。


 日差しが肌に暖かい。


 マリは捕まってしまったけど、キトには今、ナヤがいる。


 毎日、午後には、畑の手入れをかねたデートだ。


 キトはいつも以上に丁寧に、窓を磨いた。


 そこから表を眺めると、ホテル入口へ続く、短い階段を、ゆっくりと上ってくる男を見つけた。


 キトは急いでロビーへ向かった。


 大きなドアが開き、男が入ってくる。


 相変わらずの、黒いスーツに銀縁眼鏡。ラジだった。


「おかえり、ラジ」


 キトは笑いかけながら迎え入れた。


「ただいま戻りました」


 ラジの口元も笑っている。


 ラジは本土と島を、行ったり来たりしている毎日だった。


 マリと町長、そしてセドによる幻想花の流通をあばいたあと、本土で対策本部を立て、警察官たちと一緒に、ノエル翌日の突入を計画していたのだ。


 計画は念入りにと重ねられた結果、この島の評判を落とさないかわりに、幻想花に関わっていた、すべての人たちの真相を隠す、という手段にいたったのだった。


 幸い、町長を脅してデラの居場所を吐かせるという、当初の計画は無用だった。


 町長は改心して、自ら居場所を教えたからだ。


 しかし、いくら真相を隠してもらえたからといっても、罪は重い。


 町長、マリ、セド、そしてロイの4人には、それなりの懲罰が与えられるだろう。


 デラの組織を検挙したといって、ラジもすぐさま、警察から解放されることはなかった。


 これからも正しい側の立場につき、二度とこのようなことを起こさないためにも、島の警備を任命されたのだった。


 午前中は本土の警察署。そして午後からは島の警備にと、ラジはその身を使われることを、了承した。


 島での主な活動拠点は、ホテル・モンフルールだった。


 観光客のもっとも集う場所として、あてがわれた。


 口に出しては言わないが、それを一番喜んでいたのは、キトだった。


 落ち着いた大人のラジには、どんなことも相談できるし、頭もいいので、的確なアドバイスもしてくれる。


 ラジは手持ち無沙汰のように、両手をこすり合わせ、周囲を見回し、そして手の平を広げて見せながら、キトに向かってこう言った。


「さて、何かお手伝いすることはありませんか?」


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