8章
月のライン 8-1
『親愛なる兄さんへ。
兄さんの言った通り、ノエルの翌日に、たくさんの警官たちが本土から来て、自宅にいた町長を、そちらへ連れてゆきました。
町のみんなは、どういうことか分からない、という顔をしていましたが、警官たちと一緒にやってきた、ひとりの人が、金を横領した形跡がある、と言って、その場で町長を取り押さえました。
そう言ったひとりの人こそ、キトの友達のラジだそうです。
おかげでこちらでは今、次の町長になりたいという人たちが名乗り出て、町を騒がせています。
こんなことは20年くらいなかったことです。だってみんな、前の町長を慕っていたから。
それでも一番ショックを受けたのは、町長の息子さんです。彼は今、本土の病院で療養中。
お父さんの罪に、心に大きな傷を負ってしまったから、と言っていました。優しい息子さんですね。
そうそう、キトのホテルの支配人も、変わりました。
マリお祖母さんは年のせいで、都会のほうが住みやすい、と言って、キトをおいて出て行ったの。
今の支配人も、もともとモンフルールに勤めていた従業員の人だったし、キトも寂しくないと言っていました。私には、それが強がりだと分かってたけどね。
そうだ。いろんなことがあって言うのが遅れました。
じつはこの島で唯一、花の咲く場所があったの。
前はよく分からない雑草が生えていて、ずいぶん荒れていたそうだけど、それって、アクアアルタにも浸からない場所、ってことだよね。
私が発見したんじゃないんだ。
キトとラジが、お店を閉めて沈んでいた私のために、見つけてきてくれたんです!
本当によかった。だってここにタネを蒔いて、育てた花を、またフラワーショップ・ナヤで売れるかもしれないんだもの。
花の収穫期には、兄さん、手伝いにきてくれるかな?
兄さんの帰りを、心待ちにしています。
ナヤより』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます