主人公は郵便配達員のメル。そして島の人々。この島はアクアアルタという満潮時の海面上昇に悩まされていた。そこで町長は、アクアアルタから島を守る防潮堤を作ろうとしていた。しかし観光資源のみの島の経済は、逼迫していた。そんな中、ある花が注目を集め始める。アクアアルタの時に潮に浸からない場所で、密かに栽培されていた花だった。何とその花の正体は――。
海に浮かぶ島の花を巡って、人々の運命は動き出す。
そして主人公のメルは、郵便配達員の矜持と優しさを持って、人々の心の声を手紙という形で島中に届けて回る。そう、この主人公が、手紙の届け先や、手紙を託す時に出会った人々を巡ることで、島民の想いは繋がり、優しい物語は回っていくのだ。花を巡るミステリー調でありながら、この物語の登場人物たちの想いや世界観が優しい。人の死に関わるものだけがミステリーではない。この物語はそっとそれを教えてくれる。
何故、この物語が今まで読まれてこなかったかが、分からない。
短編ながら大勢の島民の心を描き、ベネチアを彷彿とさせる幻想的な世界を描き、謎を描き、そしてそれらを巡る主人公を描く。題名の「ライン」とは、アクアアルタの海面のラインであり、花の特徴のラインであり、そして花がもたらすラインでもある。さらに、人と人とのボーダーラインや、心の中の一線としてのラインでもある。この多重の意味を持った「ライン」を題名に持って来るところも、主人公の役割も、ラストも秀逸だ。
是非、是非、御一読下さい‼