なぞの声

リエミ

なぞの声


 新人の宇宙警察官は、一台の宇宙船に乗って、宇宙をパトロール中だった。


 彼はまだ新人なので、早く手柄を取りたいと常々思っていた。


 近々昇級試験があると聞いていたが、いつのことになるか、まだ未定だった。


 だから日頃から手を抜かずに、訓練しておかなければならない。


 今日も自ら宇宙船に乗り込んで、危険な異物などないか、パトロールに精を出していたのだ。




 宇宙には、地球から出たさまざまなゴミが漂っている。


 衛星を打ち上げたときの残骸が、主な宇宙ゴミとして漂っていた。


 大抵は細かく、地球に降ってきても、大気圏で燃え尽きるのだが、大きな残骸や熱に強い部品などは、定期的に見回って、宇宙警察官が回収しなくてはいけない。


 専門にゴミを集める作業員もいるのだが、危険が伴う仕事なので、その人数は徐々に下降ぎみだった。



 今日は目に留まる危険物はないな……そう思っていた時、新人警官の耳に、聞きなれない声がした。


「た……助けてくれ……」


 えっ、と思って声のしたほうを向くと、宇宙船の無線機だ。


 どこか、近くから電波を受信したらしい。


 彼はすぐ無線を手に取り、警官らしく応答しだした。


「こちら、宇宙警察です。どこにいるのか分かりますか? 怪我はありませんか?」


 しかし無線からは、「助けて……」と今にも死にそうな声しか返ってこない。



 彼は不安になりながら宇宙船を操作した。


 近くを行ったり来たりしてみるも、誰の姿も見当たらない。


 そばには宇宙飛行士もいないし、宇宙船もない。


 電波の発信源が分からないまま、彼は地球の本部に連絡を入れた。


「もしもし。近くで助けを求める声を聞いたが、誰もいない様子です」


 本部でもいろいろ調べてみたが、この近くには誰もおらず、また、そんな無線が入るわけはないだろう、と返事が返ってきた。



 が、彼は諦めなかった。


 熱心に近くを飛び回り、救助を求める人を探した。


 しかし結局、そんな者はおらず、ついに電波も消えてしまった。


 そんなわけで、彼は地球に帰還した。




 本部に帰ってからというもの、無線のことが気がかりでならない。


 上司にも相談してみたが、「まぁ、夢でも見てたんじゃないのか?」と言われ、言い返す言葉もなかった。



 同僚からは、宇宙に漂う幽霊の話を聞かされた。


 それは姿も見せずに近づいて、電波を使って声を出し、会話した相手を呪うという。


 そんなオカルト話など信じない彼だったが、日が経つにつれ、より聞いた声の印象が強くなってくる。



 あの声音。


 苦しそうな息遣い。



 彼は忘れられない怖さで、一時は本当に「こんな仕事を、この先やっていけるだろうか……」と、一人悩みに悩んだ。


 真っ黒な宇宙空間。


 吸い込まれそうな闇。


 どこまで行っても果てのない場所。


 それに、いつ宇宙ゴミが追突して、船を撃破してしまうかわからない。


 宇宙警察官というのは、まさに死と隣り合わせなのだった。




 数日後、彼はある人物と、衝撃的な出会いをする。


「こんにちは! 宇宙ゴミ収集作業員ですが、署長はおられますか?」


 その人は、宇宙ゴミを回収する、数少ない作業員だった。


 ゴミのことで、署長を訪ねて本部に来ていた。


 彼はその声を後ろで聞いた。


 同僚と話す、作業員のやり取りの声を、彼はしばらく聞いていた。


 そして、「署長は、あちらの署長室におられますよ」と、同僚に言われた作業員のあとを追って、こう言った。


「僕がご案内いたします」




 彼は作業員と署長室に入ると、デスクに就く署長に向かって、はっきりと言った。


「署長、以前、宇宙で聞いた声はこの人です。どういうことか、説明してください」


「ああ、きみか」


 と、署長は席を立って彼に言った。


「よく気づいたね。実はきみをテストしていたんだよ」


 署長は作業員の横に立ち、二人が組んでいたことを教えた。


「あの時の電波は、この作業員に喋ってくれと頼んだのだ。そしてその後、きみがどういった行動に出るか、社内極秘で試験していたところなのだよ。驚いただろう、これがうちの昇級試験だ。プロの宇宙警官に必要なもの、それをきみは持っていたのだ」



 署長は彼に、その詳細を教えてくれた。


 パトロール中に見えない者の声を聞いても、慌てない行動。


 そしてそれを捜索する粘り強さ。


 周りの仲間に冷やかされたり、呪いだと恐怖を与えられても、決してめげない冷静さ。


 さらに、声の主を当てるといった洞察力。


「おめでとう。これからも頑張ってくれよ」


 署長はにっこり微笑んだ。


 横にいた作業員は署長に、「では次は、どの新人さんにテストしましょうか」と、打ち合わせの話を始めた。


「ご協力しますとも。宇宙ゴミを集めるプロが、もっと宇宙に必要なのですからね」




◆ E N D

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