四
会社への復帰予定が決まり、いよいよ病院から出るという頃合いで、
宏と真由子の関係は、両家の親も公認している。挨拶と社交辞令を交わしつつも、宏は三人と話をし始めた。
寡黙で不器用なオヤジというイメージを持っていた茂さんだったが、意外にも親バカであり、事あるごとに娘を褒め称えていた。また、親としてはやはり娘の今後に気が向くようで、結婚はいつやるか、子供はどうするのか、という話が続いた。内容が内容なので
真由子が検査の為に戻ることになり、いよいよとなった時、ずっと佇んでいた翠さんがこちらに歩み寄り、別れの挨拶をした。
「娘と一緒にいてくれて、ありがとうね」
そこまで回想して、宏の頭は限界を迎えた。
頭に浮かぶのは嫌悪、恐怖、拒絶――
何事もなかったと思われた話だったが、不自然に思える点は幾つかあった。
例えば、茂さんは車椅子に腰かける娘の身体を執拗に触っていた。その度に
当時は親の愛情とばかり思っていた。奇跡的に大事故から生還したのだから、親として喜ぶのは当然だろう――しかし、改めて考えてみると別の可能性も出てきた。
あの時、茂さんは確かめていたのではないか――娘が
翠さんはその様子を静かに見守っていた。まだ自然な態度に見える。話の途中で何回かハンカチで顔を拭っていたが、それ以外に目ぼしい態度は見られなかった。だが、語る内容が「思い出話」ばかりというのが、どうにも気にかかる。
仲が進展した娘と彼氏を考えれば、親としての一種の惜しさがあるのは分かる。しかし、それでも「未来」の話が出てこないのは不可思議なことだ。茂さんが語り尽してしまったからかもしれないし、そうであって欲しいと願うが。
真由子は――笑顔を浮かべていた。両親と一緒だったこともあって、少し恥じらっていたようだったが、そこに後ろめたさは微塵も感じられなかった。
会話にも不自然さはない。大手術を乗り越え、彼女の身体には皮膚代わりの人工膜を始めとした
不自然だ。不自然さが見られないことが、あまりにも不自然だ。
考え過ぎかもしれない。だが、考えてみれば誰もが行き着くだろう。
時速200キロの車に衝突されて、生きているなんてことがあり得るのか。
自分がリアルな妄想を見ているか、
何より、あの真由子の笑顔は本物だ。あの屈託のない笑みに惹かれて、自分は彼女と一緒にいたいと思ったのだから。にも拘わらず――
自分でも何故こんなにも冷酷になれるのか不思議でならない。
この思考は「真由子が生きている
真由子を、殺したがっている。
Round And Round 脳幹 まこと @ReviveSoul
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