三
それほど親密な付き合いをしている訳ではない。季節ごとに同期仲間で情報共有――本当は存在を忘れ去らないようにだが――を目的に呑みにいく程度の、そんな仲である。
山崎は同期の中でもリーダー格であり、飲み会の予約や幹事は彼が率先して執り行っている。
「珍しいな、
「まあね」
「それで一体、何の用件で会いに来たんだ?」
向こうから訊いてくれたのならば、話は早い。
宏は少し前、自分に起こった出来事を説明した。
見知らぬ女性に声を掛けられ、何故か励ましや慰めの言葉を贈られたこと。会話の随所で「
謎は多くあるが、宏にとって確認したいことは一つだけだった。
一通りの説明を聞き終えた山崎は、腕を組み、難しい顔をした。
素振りからして「答えを知ってはいるが、伝えて良いものか思案している」ようだったので、宏は「気遣いは無用」と回答を促した。
少し間をおいてから、山崎がゆっくりと話を始めた。
「佐久間が入院している間、あの衝突事故は間違いなく日本で一番の話題になっていた。連日のように各局で取り上げてたし、会社に取材に来られたのも一度や二度じゃなかった」
「無理もない話だ。時速200キロで暴走する自動車、追いかける警察、怯える一般市民、果てに悲劇的な事故だ。こんなの如何にもマスコミやネットが騒ぎそうなニュースだろ? 」
「今でこそ少し冷めてきてはいるが、佐久間は有名人だ。顔も名前も全国中に流されている。だから、面識のない人に名前を呼ばれたり、心配されるのもおかしい話じゃない。
あの野郎というのは、自分と磯谷を轢いた走り屋のことだろうと宏は思った。
「しかし――本当に良かったな。二人とも助かることが出来て。よほど天の神様に愛されていたんだろうな、佐久間達は」
「意外だな。山崎が『神様』という言葉を使うだなんて」
「言葉の綾だ。まあ実際、『神様』が助けたと言われても、否定はしないけどな」
その後も、二人は会話を続けた。
親密ではないとは言え、それで場がしらけてしまう程、二人は子供ではない。
事故の話から、彼女の話、仕事の話、将来の話へと――山崎の主導によって話に花が咲いていく。
気付けば、すっかり周りは暗くなっていた。今夜はお互いに用事があった為、別れる他なかった。次回の呑み会でまた話そうということで、この場は一旦決着した。
帰り際の電車の中で、宏は人目も気にせずに頭を抱えていた。「有名人である」ということなど、今の彼にとってはどうでもいいことだった。
山崎の回答は望んでいたものではなかった。
確認したいことは、たった、たった一つの――矛盾。
「確かに言っていたんだ――」
この世の中って本当に薄情ですよね。救われるべき被害者よりも、罰されるべき加害者が認められてしまうんですから。
本当に遣る瀬無いですよ。あんなに惨いことになったのに、大衆はそれを忘れ去ろうとしている。
失礼を承知で、一つ、お願いさせてください。
彼女を――
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