第1章 秘密③
私とオッサンは相性がいいらしい。
だからといって、相性占いをしたわけではない。
オッサンがそう言ったんだ。
いつだったか忘れたけれど、一度だけ聞いたことがある。
なんで私とセックスするのかと。
別に日頃から疑問に思っていたわけではない。
ただ、あまりにオッサンが……盛ってるから気になった。
金曜日の夜に抱いた私を、月曜日の朝まで何度も何度もオッサンは抱く。
比べる相手も居ないから、常識がどうなのかは知らないけれど、それでも多すぎると思う。
それは玄関で始まり、ベッドの上に移り、バスルーム、キッチン、リビング、廊下と場所を移しながら続く。
数えようと試みたけれど、いつも気づいたら寝てしまっているから、それも諦めた。
オッサンに聞いたけれど、そんなの数えてないと言われた。
数えてと頼んでみたら、面倒くさいと言われた。
そもそも、その体力はどこから来ているのか不思議だ。
オッサンのくせに、バカみたいに盛っているのが不思議だ。
だから、当たり前のように連れ込まれた浴槽の中で聞いてみた。
「ねえ、なんでオッサンと私はセックスするの?」
「あ?」
「だって週末の度にセックスしてるよ?」
「それがどうした」
「朝から晩までセックスしてるよ?」
「だから、なんだよ」
「私、何回したか忘れちゃうんだよ?」
「バカだからな」
「違うよ。オッサンのせいだよ」
「悪かったな。で、何が言いたいんだよ?」
「飽きないの?」
頭に浮かんだ素朴な疑問を口にした私を、オッサンが不機嫌そうに見つめた。
「お前、飽きたのか?」
「へ?」
「だから、お前は飽きたのかって聞いてるんだよ」
「何が?」
「……」
「え?」
「だからセックスだよ。お前マジで頭悪いなー!」
「悪くないし!」
「わかった、男か? 他に男ができたか?」
「……え?」
「それならそうと言えよ。別に他の男とヤッてきたって怒んねーよ」
「はい?」
「それで? もうヤッたのか? あー……もしかしてアレ?」
「あれ?」
「向こうの男の方がよくなった?」
オッサンが私の顔を覗き込んだ。
なんでそんな顔をしているのかわからなかったけれど、会話が噛み合っていないことだけはわかった。
たぶん私の聞きたいことの返事を、このままでは1ミリももらえずに終わる。
「オッサン、私の話聞いてた?」
「だからお前は俺に飽きたのかって聞いてんだろ?」
やっぱり、質問を丸々投げ返された。
「私の話はしてないよ!」
「お前の問題だろ。こんなもんお前次第だって言ってるだろ」
そうなの!? それってどういうこと!?
とりあえず、私が答えないと話が進まないっぽい展開に、オッサンをジッと見る。
「なんだよ?」
「飽きてないよ」
「え?」
「だから飽きてないよ」
「は?」
「……なんか、面倒くさい」
「あ゛?」
「もう面倒くさいよ。オッサン話通じないもん」
「おいヒノ、どこ行くんだよ?」
「もう出る」
そう言い立ち上がろうとした私を、オッサンが無理矢理引き寄せて湯船に戻す。
「ちょっと!」
「まだ途中だろ。結局お前は何が知りたいんだよ?」
「だから、オッサンこんなにいっぱいセックスして飽きないのって聞いてるの!」
「あー……それってヒノとのセックスの話?」
「そうだよ」
他の人とのことなんて聞いても仕方ない。
「お前、そんなこと気にしてたのか?」
「別に気にしてないよ。ただ、こんなにするものか不思議に思ったの」
「なら最初からそう聞けよ」
「聞いてるよ」
「そんなの飽きないからヤッてるに決まってるだろ。むしろ足りないくらいだ」
「そうなの?」
「当たり前だろ。週末だけとか、どう考えても足りてないだろ」
オッサンがあまりに偉そうに言うから、そういうものなのかと思えてくる。
「でもなんで?」
「あ゛?」
「なんで飽きないの?」
「は?」
「なんで私とオッサンは、こんなにセックスするの?」
振り返ろうとする私に、オッサンの手が位置を変えるように動く。
「そんなの気持ちいいからだろ。って、前から言ってるよな?」
「じゃあ、他の人ともこれくらいするのが普通なの?」
「あーそれはアレだ」
オッサンの手が、私をさらに近づけた。
その髭が、チクチクと頬に触れる。
「相性がいいんだ」
「相性?」
「そう。って言ってもこの場合は身体の相性だ」
「からだ?」
「性格にも合う合わないがあるのと同じで、身体にもあるんだよ。セックスして気持ちいいと思えるやつもいれば、イマイチのやつもいる」
「そうなの?」
「ああ。その相性が俺とヒノは相当いい。俺の知る限り、最高に」
そう言ったオッサンの指が、私の脚の間に入っていく。
「ん、」
「だから何度も挿れたくなるし、できればずっとこの中に居たいくらい」
指がユルリと進む。
「はン!」
「で、たぶんヒノにとっても、俺は相当相性がいい男だと思う」
「なんでわかるの?」
「だってお前も飽きないだろ?」
その問いに頷く私を、オッサンが厭らしい笑みで見る。
背中に伝わるオッサンの体温がくすぐったい。
「何度しても気持ちいいだろ?」
「ンンンン!!!」
「ずっと挿れられていたいって、思うだろ?」
耳元で囁かれる声と、腰の辺りに押し当てられる熱に眩暈がする。
「つまりそれを相性がいいって言うんだよ、ヒノちゃん」
「待って!」
「何を?」
「お湯入っちゃう」
「それがいいんだろ」
浴槽の中で一瞬浮かされた身体が、ゆっくりとその熱を受け入れた。
背後から私の身体を抱き寄せながら、オッサンが微かに声を漏らす。
その感触に、全身が震える。
「あ、気持ち、」
無意識に零れる言葉に、私の中でオッサンが反応するのがわかる。
「ヒノはマジで学習しねーよな」
「あ、あ、動いちゃダメ」
「俺は初めから言ってるだろ?」
「や、何? あ、ンン」
「セックスする意味なんて、気持ちいいから以外にないって」
動かされる身体に合わせて、浴槽からお湯が零れる。
大きな手が、私の胸を包む。
「でもそう考えるとヒノは可哀想だな」
項を、厚い舌が撫でる。
「な、に?」
「だってお前この先、誰とヤッても満足できないよ」
「へ?」
与えられる快感に、オッサンの言葉が頭に入ってこない。
「でも、俺じゃなきゃ満足できない身体って思うと、さらに興奮するけどな」
「ふンン!!」
唇が、無理矢理塞がれた。
「怨むなよ、ヒノ」
「ン、あ、あ、」
「まあ、お互い様か」
オッサンの指が、私の快楽を優しく摘まんだ。
「っっ!」
「やば、マジいい」
途切れそうな意識の中で、その溶けるような繋がりだけがはっきりとわかった。
たぶんきっと、これが相性だ。
「ヒノ」
「あ、オッサン」
「ヒノっ」
「オッサン、」
「名前、呼べよ」
その声が、耳鳴りのように響いた。
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