エピローグ
旅立ちの門出を埋め尽くすひといきれ。
ふたりは盛大な見送りの中、街を後にする。たった三日間いただけだというのに見知った顔ばかりだ。カフェの主人、パイプのおじいさん、猫を抱いた派手なご婦人、等など。
そしてふたりが街道に出てしばらくした時、エレーナの声が聞こえてきた。
「ありがとう! 私、あなたたちのこと忘れないからね!」
ニコは振り返り、手を振った。
大勢の見送り人たちの姿が見えなくなるまでずっと、ずっと――。
「お師さま、次はどこへいくんですか?」
麦が穂を垂れる黄金の野道。
ニコは師の背を追いながら小走りに駆ける。
「ニコ、耳を澄ましてごらんなさい。道の先から聞こえませんか? 忘れられたものたちの声が。それさえ追っていけば我々が食いっぱぐれることはありませんよ」
「なんだか……それも哀しいですね」
「そうでしょうか?」
師匠は珍しく歩を緩めニコが追いつくのを待った。そして笑顔でこういったのだ。
「忘れ物が多いということは、それだけ思い出すこともできるってことじゃないですか」
そんな風に、あっけらかんといってしまえる師匠がとても眩しくて。
ニコはそっと瞳を閉じた。
風の匂いが変わる。
また、一雨きそうだった――。
【おしまい】
ソラミミのニコ 真野てん @heberex
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