第8話 メイルシュトローム【災貨の大渦】

【いしのなかにいる】


という某有名RPGのテキストがある。現在のムイシュキン公爵がそれである。ムイシュキン公爵は動けない。


ム「新年明けまして、あ!」

ム騎士団一同「おめでとうごさいまーす!」


ム「いやぁ、2019年始まりましたねー。」

ロ「去年は酷い一年でしたわね。」

ム「苦しかった。あれは酷いよ。特に年末」

ケ「ムイシュキン殿、やはり黒サンタですか?」

ム「最悪のクリスマス。あいつ新年明けてそうそうでたよ。」

ム騎士団一同「え?マジで!?」

ム「うん。昨日さ。クロス円下げまくってたからさ。」

レ「ショートソードを繰り出したんですか?」

ム「うん。だってドル円109.50。ポンド円138.30ですよ?」

ロ「ドル円は114.40から500PPも下落してますわね。ポンド円に至っては149.40から1100pp!?」

フ「そりゃレンジ逆張り狙いたくなるよな。あたいだってポジりたくなるわ。」

ニ「しかし、エウレカ計画は安定した超長期的原資回復が目的。危険はわかっていたはずですぞ。」

ム「うん。去年の損失転移は完了してたから欲をだすべきではなかった。ショートソードを使用して両建てを解除した途端ペストマスクを被った黒サンタが横に居たよ。」

ロ「少しでも損失を減らしておきたかったのね。」

ム「うん。また下落を続けてたよ。マスクの下の奴のにやけ顔。腹がたったよ。」

ケ「ストップはかけたのですか?」

ム「うん。せめてもの安全装置としてね。RSI的にも反転上昇する可能性は充分あった。ドル円は108.60に、ポンド円は138.00にそれぞれ設置した。」

レ「それで?」

ム「しばらく膠着状態が続いたよ。ストップもかけたから眠りについた。朝起きたら利益が出ていることを神に祈りながらね。」

ロ「やな予感がしますわね。」

ム「朝目を覚ました。ポンド円が、ドル円が立て続けにストップを狩られた。そのまま奈落の底へ。チャートはフリーズした。」

レ「新年そうそうフリーズですか。」

ム「チャートが動き出したとき。ドル円は104円台に、ポンド円は132円ギリギリにいたよ。」

ム騎士団一同「ゴクリ。」

ム「地獄が開いたんだ。ストップをかけていて良かった。もしストップがなければ。ゾッとするよ。数多くのクロス円ロングソード保有FX戦士達が地獄に飲み込まれただろうね。あんなものを見たらFXなんかやりたくなくなるよ。これは言うなれば合法的通貨搾取システム!メイルシュトローム【災貨の大渦】である!!」

ニ「しかし、もはや残されたのはトルコリラ円のみ。」

ム「ああ。永い戦いになるな。新年のお年玉50万を糞世界経済に喰われた。去年の損失と合わせて150万!途方もない数字だ。為替相場レウコクロリディウム・・・・」

ロ「騎士団の財政は残り200万。トルコリラ円10枚保有。スワップが1日1200円。一年で約43万。納税も考えたら4年以上はかかるわね。」

ム「リスクは?」

ニ「はい。まずは差益による損失。これはレバ1倍の保有ですので理論上は1トルコリラ1円まで耐えれます。」

ケ「それなら時間が解決してくれるな。どのようなダメージにも耐えられる最強の盾【アイギス】を手に入れたようなものだ。現在トルコリラ円19.80だから4年後に同じ位置にいればいいわけだ。」

ケ「しかし、トルコリラは高金利通貨。下落し続けている通貨だ。」

ム「下落も考えれば10年塩漬けという所か。それ以降は元本を保証されたまま常に利益を産み出す。最強の剣【エクスカリバー】を手にいれたと同義だな。ククク。まだリスクは?」

ロ「トルコ共和国のデフォルトによる通貨取引停止なんてありえるかしら。あとは高金利のスワップがマイナススワップに変化することね。」

ム「そうなった場合時間との戦いになるわけか。トルコ共和国の経済が崩壊するか、我々が損失を回復するか。」

レ「どちらにせよ苦しい戦いだ。もう後はないぞ。」

ム「地に落ちたアイスクリームに蟻が群がるのが先か、我々が先か・・・・・か。最終経済戦争【ラグナロク】の開始だ。」




禁断の地【エウレカ】は遥か遠く。青空が広がって、緑の木々が風にそよぐ。あの幻想的理想郷。


深海の底で潜水服の騎士は石のように動かない。しかし、その瞳は死んでいなかった。


「FXに近寄ってはいけない。触ってはいけない。欲に流されてはいけない。ただ待つのみ。見ていろ!絶対的欲望の権化世界経済!喪ったモノを取り返してやる!」


復讐に燃える暗黒騎士の戦いが始まろうとしていた。



【完】





加筆【後日談】


アレ【災貨の大渦】から2ヶ月が経った。


1ドル111.40円

1ポンド148円


ここまで回復している。あの急変動がなければ損失はほぼ無かったと言っていい。

昨年ムイシュキン公爵がそろそろ反転するであろうとの考えは間違ってはいなかった。ただあのメイルシュトローム【災貨の大渦】さえなければ・・・。

日足のレンジで見れば巨大な槍だ。数々のFX戦士達のロスカットポイントやストップポイントを串刺しにしたソレは【ロンギヌスの槍】と言ってもいい。

悔いても何も変わらない。ムイシュキン公爵は深海の底で唯一残ったトルコリラロングソード【聖剣】を握りしめる。トルコ共和国崩壊まで耐えることのできるポゼッションは僅かながら、だが確実に利益を積み重ねていた。







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H.N.ムイシュキン公爵の経済戦争 東京廃墟 @thaikyo

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