ENDING

 日が巡り、サウィン祭が訪れた。

 シャムロックが敷き詰められたケネディ家の中庭には、星空を焦がさんばかりに燃え上がる大きなかがり火。それを囲むように、ケネディ家と縁のある者たち、周辺の住民たちが集まり祭を楽しんでいた。占いや焼き肉などを行う出店や、宝石などの掘り出し物を扱う露天商も集まり、今年のサウィン祭は大盛況であった。

 燃える炎の周りには、騎士の姿をした人々もおり、酒の入ったジョッキを片手に妖気に踊っていた。襤褸の外套を身に纏った痩せこけた男や、猫の姿をした男、首のない騎士の姿も確認できる。そう、パトリックが始末したはずのエセリンド親衛隊の面々である。


「サウィン祭はこの世と異界が繋がる日とは聞いていたけど……」

「まさか、パトリックお兄ちゃんが倒した妖精も復活しちゃうなんてね」


 おめかししたレイチェルとモル=ロウ。二人は異形の者たちの姿を見つめ、あははと笑っていた。


「まあ、わしは異界にすらいけずに、彷徨っていたのじゃがな」

「わっ、ウィルさん。サウィン祭の火でまた元気になっちゃったの?」

「なあに、もうわしらはお嬢ちゃんたちをどうこうせんわい。今日はいい炎が燃えとるからな。モル、わしと一緒に踊ってくれるかのう?」

「うん、踊るのはモルも大好きだから、いいよ。妖精くんも一緒にね!」


 ウィル・オブ・ザ・ウィスプに誘われ、赤毛の少女は鍋のお友達とともに踊り始めるのだった。

 そんなサウィン祭を楽しむ妖精たちを見つめ、穏やかな笑みを浮かべる者がいた。


「ああ、こんなに心躍る祭は何百年ぶり……。幼いころの収穫祭を思い出しますの……」


 夜空のように黒髪を煌めかせている吸血妖精エセリンドであった。白い手にはワイングラス。芳醇な香りが熱気を帯びて心地良く漂っている。エセリンドはワイングラスを回し、顔を柔らかくさせた。


「まさかこんな日が来るとはな……」


 エセリンドに寄り添う形で一人の青年が肩をすくめる。

 チュニックを纏ったラフな姿だが、フェアリーハンターのパトリックだ。

 エセリンドはパトリックの詩の力によって宿命に終止符を打たれ、配下の妖精もろとも改心。ケネディ家に監視という形で保護されることとなったのだ。パトリックもまた、ワインの注がれたグラスを手に持ち、エレガンスな香りに馴染もうとしていた。


「こうした日々が続くことを、わたくしは祈っていますの……」

「そうだな。お前が人間に絶望し、吸血妖精としての力を覚醒させないように、努力しなければならない」

「では、よい未来を夢見て、乾杯しましょう。パトリック・ケネディ……いえ……」


 薄い唇をきゅっと結んだあと、エセリンドは凛と通る声で呟いた。


「多くの妖精を屠り、わたくしをも変えた『怪物』へ……」

「俺のほうが怪物なのか……。まあ、悪くはねーか」


 触れ合うワイングラス。

 フェアリーハンターと吸血妖精がかちんと音を鳴らした。


 地上には赤く燃えるかがり火。

 空には星も月も磨き上げられたように眩い光を放っていた。

 優しい夜風が吹き、エセリンドの長く流れた黒髪をさらさらと揺らす。



 数え切れない巡り合わせの果てに出会った人間と妖精。彼らは激動の時代を生き抜き、未来へともに歩き続ける。

 これはそんな妖精の国の、数多くあるお伽話の、その一つ。





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モンスターへ乾杯! アルキメイトツカサ @misakishizuno

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