海に向かって「ざまぁみろ」と言ってやるはずだった

 高校三年生の「わたし」が、晴れた海にやってくるシーンから物語は始まります。
 一年前の今日、開催されるはずだった花火大会を思いながら、「わたし」はひとりアメフラシをつつきます。
 アメフラシをいじめると、海が荒れると聞いたから。
 水中に咲くスミレとともにやってきたのは、はたして──

 殴りつける雨の中紡がれる情景のどこか褪せた色彩が、対峙する少女たちのじっとりとした体温の輪郭を克明に描き出します。
 不恰好とさえ言えるかもしれない生々しい感情の流れは、その人間らしさゆえに胸を打つのでしょう。
 思春期の嵐を綴る、濃厚かつ美しい一万字です。
 かつて子供としてその時代を過ごしたあなたも、今一度味わってみてはいかがでしょうか。