このレビューを書いたのは平成終了後ですけど!(笑
さて、拝読してすごいと思ったのは筆者が持つ不動産・事故物件の知識量です。「ああ、その道に詳しい方なんだな」と安心感を持ちながら読み進められます。しかしこのお話は堅苦しいものじゃありません。
進行はお笑い芸人顔負けのボケ&ツッコミでお話は進み、オムニバス形式で事故物件を処理すると思いきや、コンビを組んだ二人にはそれぞれ別の思惑が存在して……?
ラストもなかなか着地が想像できない展開です、二人がYoutuberを続けた先に見つけたものとは?
ぜひ、あなたの目で確かめてみましょう!
事故物件。過去に、殺人事件の現場になったり、家主が自殺などで死んでしまったりしたアパートや家。
引っ越し経験がある方はご存じでしょうが「告知義務」というものは、直前の出来事まで。事故物件でも、一度誰かが入居した後は、その次の入居者に告知する義務は無いそうです。
でも、やはり事故物件。入居者が代わる代わる、同じナンカイヤナ体験をしてしまったら……
こちらの【ゴーストイーター】へ!
ウスバカゲロウ2号さんと3号さんが、動画を撮りながら事故物件に一晩泊まります。そしてなぜナンカイヤナことが起こったのかを、わかりやすく解説。
ふたりのコミカルなやり取りが動画を観やすくしてくれているので、今回の動画が怖くても、次回の動画も観たくなる。ハマる!
ところで、ウスバカゲロウ【1号】さんは?
それは観てからのお楽しみ。では、どうぞ~!
はじめまして、怪奇現象の多い家が実家だった者です。
実家は飼いネコが分裂したり、足音がしたから背後を振り返ったらだれもいなかったり等、不可解なことが頻発する物件でした。ちなみに自己物件ではありません。ただ。地域全体が心霊スポットでした。
実家を出てからは怪奇現象に遭遇することがなかったため、私は「家で起こる怪奇現象」に飢えていました。ふつうの物件ってびっくりするほどなにも起きないんですね。
そんな折に出会ったのが、本作『事故物件に1日だけ住んで、YouTubeで動画配信するアルバイトはじめました。』です。あらすじはタイトルの通りです。
みんな大好き「YouTu●er」と「事故物件」を題材にした本作は、【動画パート】と【動画ではないパート】にわかれています。そして、この作品のひときわ強い特異性は【動画パート】に凝縮されています。
【動画ではないパート】は「小説らしい小説」ですが、【動画パート】は台詞と「動画視聴者からのコメント」だけで構成されています。
映像要素がばっさりと切り捨てられ、動画上の肉声とテロップを拾い上げて文章化されているというわけです。
「配信用の動画」という前提があるからこそ、説明的だったりわざとらしい台詞回しがあってもまったく違和感がありません。むしろ、自己物件の実況をしているという「それらしさ」が際立っています。
そして、この技法がホラーというジャンルにとても合っているのです。
私は実家に住んでいたころ、フリーのホラーゲームをプレイしまくっていた時期があります。荒いドット絵と端的すぎるフレーバーテキストがぞわぞわと気味が悪くて、いい感じにキマっていました。ちなみに、だれもいないのに居間から聞こえてくるドアの開閉音や、廊下から聞こえてくる湿った足音、背後から聞こえてくる息遣いは、忙しいのでガン無視しました。
短いドット絵にフレーバーテキスト…描かれている世界の解像度が低いからこそ怖いんです。足りない情報を自分の頭で埋めざるを得なくて、しかも自分にとって「怖いもの」を想像してしまう…皆様もご存じのことでしょうから、あえて言及する必要もなかったかもしれないですね。
本作には怪異のびっくり箱のような、「さあ恐怖しろ!!!!!そして死ねッッッ!!!!!!」な展開はほとんどありません。けれど、「なんか嫌だなぁ……」という淡い恐怖がじんわりと伝わってきます。ヤバいのは事故物件じゃなくて●●ですし。
【動画パート】の末尾には「動画視聴者からのコメント」が並んでいます。その下には、カクヨム読者による応援コメントが格納されています。つまり、カクヨムというサイトに投稿し、さらに読者という第三者を呼び寄せることによって、架空のコメントと実在のコメントが連続しているという、実に興味深い構造になっているのです。そのため、どこまでがフィクションで、どこまでがリアルなのか、その境界線が自分のなかで揺らぐという、なかなかレアな感覚を楽しめました。
古来より、境界には魔が宿ると言われています。したがって、本作もなんらかの魔術的な力を帯びている可能性が考えられます。実際、本作を読みはじめたころ、住居の隣室から女性の喘ぎ声だけが聞こえてくるという怪異に遭遇しました。
フィクションとリアルとの境界線を溶かしてゆく構造は、魔術だけではなくエンタメ的にも優れています。空回りする二号くんの台詞や淡々とした三号くんの語り、明日使える不動産業界の裏話を、You●ubeでも眺めるような軽い気持ちで読み進めるうちに、作中世界が現実と地続きなもののように感じられ、その上で意識が虚構へと吸いこまれてゆくのです。
情報が圧縮された動画パートでふとした瞬間に顔をのぞかせる、みずみずしくて生々しいたくさんの想い。それらをもっと知りたくなるからこそ、【動画ではないパート】でていねいに描かれている登場人物の背景や心の動きにも没頭してゆくことになるのです。
【動画パート】と【動画でないパート】とのあいだでドライ⇔ウェットを行き来し、やがて一体化してゆく構成の鮮やかこそが、本作の特筆するべき魅力でしょう。
『事故物件に1日だけ住んで、YouTubeで動画配信するアルバイトはじめました。』というフィクションと「怪奇現象の多い実家」というリアルの狭間を漂うことができて、たいへん満足しております。
ちなみに、私の実家はすでに売りに出され、だれかの手に渡っています。
……アナタの家、私が暮らした怪奇物件かもしれませんよ?
事故物件に1日だけ住んで動画配信するYouTuberコンビ『ゴーストイーター』。
そのメンバーであるウスバカゲロウ二号(編集担当・三十路・不健康)とウスバカゲロウ三号(動画担当・十代・金髪)が、本作の主人公です。
そんなの絶対やばいでしょ、という第一印象を裏切らず、事故物件には怪異がいっぱい。でも、渦中のウスバカゲロウ三号はそう簡単には動じません。
あっさりと怪奇現象のネタばらしをしてみたり、「うるせえ!!!」と幽霊を怒鳴りつけたり、切り札を惜しまなかったり。
素直にビビるウスバカゲロウ二号と共に、三号の活躍を見守るだけで、手に汗握るエンタテイメントであることは間違いありません。
しかし、本作の真価はそれだけにとどまりません。
まず、読者-小説-動画-動画視聴者という鏡写しの構造がニクい。
私のようにビビりだけどホラーが好きという人間にとっては、動画(作中作)によってワンクッションがあることにより、夜中にトイレに行く権利を失わずにホラーを楽しむことができます。
一方で、動画を見て様々な(時に身勝手な)コメントを残していく動画視聴者たちの姿に、えもいわれぬ不気味さと、鏡写しに自分の醜態を見たような居心地の悪さを見出すのです。
動画があるということは、ゴーストイーターのふたりが無事だったということ。その安心感が、舞台裏の挿話によって瓦解する瞬間の怖さ。恐怖に緩急があることが、ホラー作品としての深度を一段上げているように思います。
そして、なんと言っても、ゴーストイーターのふたりが織りなす人間ドラマが見どころです。
回を追うごとに増していく、失踪したウスバカゲロウ一号の存在感。
それぞれに一号を追い求める二号と三号は、無事に彼に会えるのでしょうか。
愛すべき主人公たちが、生者としてよい結末を掴めるよう、祈らずにはいられません。
ホラーとしての魅力に満ち溢れた本作ですが、怖さばかりの作品でもないように思うのです。
死ぬ前に分からなかったことは、死んでからも分からない──繰り返し語られる幽霊と生者の違い。悪い霊に引きずられないための心構え。恐怖の裏には、どこか生者へのエールが込められているように感じます。
少しでも気になったら、ぜひ、ゴーストイーターのチャンネル登録を!
アカウント名:三宅 蘭二朗
事故物件に住んでそれを動画配信する2人組の話。
軽妙なトーク(と言っても、実況担当のしゃべりと編集担当のテロップの会話という構成)で当該物件がなぜ事故物件なのかを明かしていく、ウスバカゲロウ二号とウスバカゲロウ三号。
陽気なノリだけど体験していることはマジでこえぇからな、こいつら。大丈夫なのかよと。
実際、大丈夫じゃなさそうな感じが物語が進むにつれて加速していく。無茶すんなって!
連作短編になっていて、全てが前編、後編、解決編、そして舞台裏の4部構成。舞台裏以外は全て会話劇で進むという内容で、ここでの陽気なやり取りと、舞台裏で明かされる切羽詰まった感じの対比が面白い。
でもね、2人の姿を見て思うんだ。もう君たち肉体的にも精神的にもギリギリなんだから、そんなに動画内でテンション上げなくてもいいって……。
【読む動画】。
そうとしか言いようのない新体験を味わうことのできる、鮮烈な印象の作品です。
『ゴーストイーター』を名乗る二人組が配信するのは、事故物件に寝泊まりし、そこで起こる心霊現象を解明する動画。
その中で紹介される不可思議現象の臨場感もさることながら、二人の掛け合いがテンポよく、まるで本当にyoutubeを見ているかのような感覚になります。
配信後の舞台裏パートでは、動画内とは少し違った二人のやりとりが見られます。
どうやらこの二人、ウスバカゲロウ二号と三号には、行方不明になってしまった一号を探すという真の目的があるようです。
動画では明るく楽しいツッコミ役ながら、現実ではどんどん何かに心身を蝕まれていくかのような二号。
多少のことでは動じないくせに、二号の様子に時々本気で心を乱しているような三号。
それぞれに使命と覚悟があり、その重さと闇の深さに思わず胸を衝かれました。
はたして二人は無事に一号を救い出せるのか。
続きがとても楽しみです!
本作はYouTuberを題材とし、彼らが「事故物件から生配信を行う」、あるいは「事故物件に収録に出掛ける」という形式を基本として展開される。
会話文を主体にした小説は今や数多く存在するが、上記に挙げたシチュエーションから繰り出される生きた会話文は、「事故物件」ならではのホラー要素と上手く融合し、本作をより臨場感の溢れる作品に錬成させているように思う。
また特筆すべきは、この生きた会話文が生み出していく、配信者二人の絶妙なすれ違いだ。
それは時に小説の世界において、「叙述トリック」などという言葉で表されるものであるが、会話上の絶妙なすれ違いや意図せぬ情報不足は、読み手を引き込むミステリー要素として、蜘蛛の糸のように作品全体に張り巡らされている。
それらのすれ違いを紐解いていくのが、YouTubeならではのコメント欄や、または配信・収録を行っていない素の状態のYouTuberのひとり語りである。
予想通りで爽快感を与えてくれるエピソードから、様々な補足を経てようやく辿り着くことの出来る霞がかった真実まで、本作【事故Tube】は読み手を一気読みさせる魅力を十二分に携えた、秀作にして大傑作である。
三号くんは村上〇郎氏、二号は松坂〇李氏がいいですね。
こちらの作品はそれくらいリアリティと申しますか、YouTubeを漁ったら本当にありそうだと感じます。日本のどこかで彼らは一号を捜しながら事故物件を転々としているのではないか?
表向きは事故物件に泊まってリポートをするお笑い番組のコーナーのような動画です。基本的に台詞の掛け合いなのですが、そこはYouTube、わざわざ状況を口頭で説明するところが逆にリアルです。ある! こういうシーンあるし、そういうテロップ出る!
しかも普通に怖い!!
裏では失踪した一号を巡るミステリー風のホラーになっています。こちらも面白いです。少しずつ近づいていっているような気がするのですが、いったいどうなったのか。目が離せません。
続きも楽しみにしています。
(最新話、第四章5話までを拝読した段階でレビューを書いています)