元素と二進数によって再構成された未来の日本で繰り広げられるスタイリッシュバトルアクション小説。
二進数という言葉からもわかるように、コンピュータのプログラム言語のような法則が物理法則と融合した世界とでも言うべき、独特な世界観が最大の魅力です。
文章は冗長かつくどい言い回しが多く、構築式〈プログラム〉、補助装置〈サポートデバイス〉、規格外〈ハイエンド〉などといった造語が次々出てくるため、読み易いとは言い難い。
しかし、この手のアクの強い文体は、然るべきセンスの持ち主が書いた場合、強力な中毒性を生む。そして作者はどうやら一級のセンスをお持ちのようだ。
スタイリッシュなアイデアが散りばめられた設定は、美学によって強固に補強されて揺るぎない。それでいてまだ見たことのない新しい世界の創造に成功している。普通こういうのは、素質のない者が真似すると「イタイ」結果に終わるものですが、本作はちゃんとかっこよくなっている。「かっこよく格好つけている」好例だと思います。
ストーリーはシンプルな勧善懲悪でわかりやすい。強くて可憐なヒロインが悪者をぶっ倒す! ついでに男の子も救う! 結末は……どうかご自分の目で。
主人公は黒髪赤瞳の美少女・沙田撃鉄、17歳。
もちろん、偽名である。
<中立子>としての異能を活かし、何でも屋「沙田事務所」を営む彼女の元に、ある日、ひとりの少年が訪れる。
「──復讐、して欲しいんです」
おとなしく、奇妙なほど世間知らずな依頼人・露口。
露口の復讐対象である<魔女>、失踪した露口の姉、撃鉄を取り巻く一癖ありつつもあたたかな人々、そして、失われた日々のこと。
一筋縄ではいかない不穏な依頼。
結末は少年の望むものとなるのか、あるいは、より大きな流れをもたらす蝶の羽ばたきとなるのか──?
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ライトノベルは好きですか? 私は好きです。
この作品を読むと、中学から高校にかけて読み漁った数多の物語を思い出します。
外連味のある台詞回しや演出。新しい世界観やキャラクターに出会った時の楽しさ。双方があるからこそ、単なる懐かしさではなく、当時のワクワクやときめきを蘇らせてくれるのだと思います。
フィクション的なハッタリをふんだんに盛り込みつつ、戻らない過去への寂寥感が血の通ったキャラクタ性を感じさせてくれる、魅力的な作品です。
撃鉄ちゃんと露口くんが出会い、物語はまだまだ始まったばかり。
鮮やかに体系化された世界観に、あなたも身を浸してみませんか?