星三つじゃ足りない……

この小説を読み終えた時にまず思った事は、星三つでは足りない。
前作のビタークラウンを読んだ時点で、文章が丁寧で読みやすいお話だなと星三つの評価を出しているのに、この作品はそれを遥かに上回るお話だった。
そして、この感動をどう言えば伝わるのだろうか。
これほどに文章を読んで、感想に悩んだ事は今までに一度もない。
頭のなかで何度も文章を練り直し、この作品の素晴らしさを書こうとする度に頭を過るのが「これほど完成された作品に自分が説明を入れる事こそ蛇足なのではないか?」という葛藤だった。

ここまで書いて、何もこのお話の内容を説明していない事にこの作品を読んでいない人なら疑問を抱くかもしれない。
でも、それを理解するにはこの作品を読むだけで通じると信じている。
何故なら、このお話は作者さんの世界を知ってもらうために、礼の限りを尽くして作られたものだから。

しかし、このカクヨムという媒体では数多にある作品の中から、このお話にたどり着くのはなかなか難しい事なのかもしれない。
実をいうと、自分もこの作品が発表されてから、ほぼ一年近くの間読んでいなかった。作者さんの事を一年前には知っていながら、ビタークラウンを読み始めたのも数ヵ月前。
どんなに作者さんが世界の設定を練り、物語と人物を絡ませ、読者の読みやすい文章を意識して書いたとしても、読まれる機会が無いために評価を受けることすらない。
それがどれ程までに孤独で、切なくて苦しいことか。
このお話を読んだ感動と同時に、今まで読んでいなかった自分に対して嫌悪感すら感じる。申し訳なさ過ぎて泣きたいぐらいだ。
……というか、ちょっと泣いた。

これだけ前置きして何の具体的な感想も無いと「ただ盛ってるだけなんじゃね?」
って思われるのも悲しいので、稚拙な文章しか書けない自分なりに、物語の事について触れてみたいと思う。

突然の戦争の終結に、心の癒えぬまま帰郷を果たすフレイセル。
戦前に彼と優しく接してくれた友は、今でも自分を受け入れてくれるのだろうか?
そんな葛藤のなか訪れた友の部屋には、見たこともないかわいい少女がいつの間にか一緒に暮らしているのだ。
その名はミルテ。無邪気で無垢で実際かわいい
え、君誰?なんでしかも馴れ馴れしいの?
俺のいない間になんかあったの?
フレイセル君の心は乱されるのだが、友人のヴェイル君には更には一番弟子のこれまた美少女のツンツン少女が。
しかもフレイセル君に「あんた師匠のなんなのさ?」
とライバル意識してバリバリでヴェイルさんとゆっくりお茶も飲ませてもらえない。
フレイセル君の心の安寧と明日はどっちだ!

……面白さは伝わっただろうか?
これは実はお話の触りでしかなく、そこに世界的な重い背景、戦争、民族問題、それぞれの秘密と邂逅、忍び寄る脅威……さまざまな要素が絡んで織り成す物語には、余分なものが一切なく、読み手にその世界の
背景と人物像を知るのに必要な情報が真綿が水を吸うようにスッと頭に入ってくる。
現実でも名前をよく間違えたり忘れたりす自分が、読み終えたときに、キャラクターの名前をしっかりと覚えていて、その容姿や雰囲気もしっかりと覚えていたのが印象深い。
そして、この世界の魔術や神話に関する知識もいつの間にか共有することができて、架空の世界であることを意識する事なく入りこめるのだ。
このお話を読んだあと、この世界の別の場所でお話には出てこない別の人物のエピソードを想像する二次創作的な懐の広さをこの作品は持っていると思う。

つまり、この作品はストーリー小説ではなく、ナラティブ小説なのではないか。
このお話が例えばゲームになったとしたら、どこの学科の魔術師をしようかなとか、誰の下で学んだ生徒にしようかなとか、楽しい想像がいっぱい浮かんでくる。
読み終えた後でもその世界の余韻に浸っていたい……そんな魅力的な作品に巡り会えた事を心から感謝して、新たな読者さんが増えてくれる事を心から祈るのでした。