大人になると、気づかないうちにあらわれてしまう日常のルーチンというものがある。
私の場合、面白かった作品に触れた後につくため息がそうだ。
その意味で、この作品は、というより『強盗童話』は間違いなく面白い。
だから前作(あるいは本編)である『強盗童話』もあわせてオススメしたい。
作者の持ち味である、軽妙で心地よい語りや登場人物の掛け合い、脳裏に鮮やかに浮かぶ情景描写は健在。それでいて、見せ場における息をのむような筆致たるや素晴らしいの一言。
一瞬のうちに展開する場面を、読者が脳裏にスローモーションで克明に映像化できる文章はこの作者ならではということができるだろう。
さながらそれは、子供時代に川上から流れてくる大きな桃やカボチャが馬車に変わる場面を想像していた頃の興奮を与えてくれるかのようでもある。
唯一、読者が往時と異なっている点は、婉曲的に書かれる物事の背景が「わかって」しまう事だろう。
構築された社会の持った怖さを感じる静かな描写は、一方で、そうした社会に身を置く人たちが活躍するワクワク感を肉付けするポイントにもなっている。
童話は日常に由来しながら、どこか突拍子もない。
確かにこれは、社会に存在するが巻き込まれるまでは我々から遠くにいる者たちの姿を刺激たっぷりに描いた、近くて遠い住人たちの活躍劇なのだ。
だからとても、格好良い。