11通目 恋愛神様の代筆 津森祐樹の手紙

 拝啓 ビッキー様


 セ・パ王者が決まり、まさに両者の火花散る昨今、お元気でしょうか。


 我らがジャイアンツも順当にクライマックスシリーズを制し、日本シリーズで勇士を見られることはとても嬉しく思います。しかし意気消沈されている貴方なんてらしくないではありませんか!


「最低な人間なのかもしれません」

 いいえ。貴方は自分を卑下しなければならない人ではない、と思います。それは文通を繰り返すことで、私が感じた素直な感想です。

 それほど貴方は気に病む必要はないと思います。

 彼に言ってしまった一言も、それは貴方が感じた正直な気持ちです。それを捻じ曲げて誤魔化す必要なんてない。ましてや無かったことにしなくてもいい。ただそれの真意を彼に伝えれば良かった、とは思います。


 考え方の違うもの。何を考えているか分からないもの。

 それらに気持ちを伝えることは、確かに勇気のいることだと思います。ですが、言葉で伝えなければ分かり合えるものではありません。分かり合えなければ、未知のまま。何をしてくるか分からない、カブトムシのままです。いつまでも畏怖の対象になり続けてしまいます。


 たとえ話をしましょう。

 私たちは、知らない人と、野球をやっているんだと思います。

 ボールを投げ合い、打ち返し、試合を動かしていく。ボールを投げなければ、何もスタートしません。ボールを打ち返さなければ、試合が成立しません。いつまでも、スコアボードに0、0、0、と0が永遠に続いて行きます。伝わりますか? つまり、言葉にしなければ、何にもならん、という意味です。


 お恥ずかしながらかく言う私も貴方との文通を通してそれに気づかされました。

 しかし世の中はおかしなもので分かり合いたいけれど想いを交す勇気が出ないものなのかもしれません。世の中というものは、小さな矛盾に溢れていると思います。

 近づきたくても近づけない。なんでも言い合える関係だからこそ言葉に出来ない。男性が苦手なのに男性を知りたい。死にたいのに生きていると嬉しい。自分を愛し過ぎないようにありのままの自分を愛さなければならない。たとえを挙げると切りがありません。

 その矛盾の中で人間は生きているんだと思います。大きな勇気を持って生きている!

 それに今更ながら気づく私は未熟者だったと猛省しています。やはり私では本物の神にはなれない。私もただの小市民です。


 そこで貴方に提案があります。

 私と言葉のキャッチボールをしませんか?

 なに私のことはただの練習台と思って頂いて結構です。お気軽に想いを言葉にする練習をしていただければと思います。これで本当の意味で貴方の相談が解決されるのではないでしょうか。

 それに私も貴方に伝えたいことが山ほどあるのです。


 よろしければ、十月三一日、十四時に春日駅の文京シビックホール一階エクセルシオールにてお待ちしております。不躾なお誘いをお許しください。


                                   敬具

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