5通目 迷走敗北者 津森祐樹の遺書
遺書
一六時二八分。現在、俺は新幹線に乗り死に場に向かっている。
俺はこの身の崩壊を持って精神の完成を夢見ることにした。富士の樹海で骨となり、骨は富士の大地に食われるだろう。そして、俺の一部は活動を止めた業火に再びの活性をもたらす。俺の一部が噴火により彼女に送り届けられるだろう。そこで俺は彼女を見守り続けるのだ。
彼女に嫌われた。この事実だけが、俺の存在意義を失わせる。
だからこそ灰となり、空中に漂うことで俺の思念は生き続ける。ひとえに彼女のためなのだ。分かってくれ。
俺の財産は吉松、お前に譲渡しようと思う。
自室にある机の一番下の引き出しの底は二重底になっていて、そこに俺の蔵書が眠っている。俺が厳選に厳選を重ねて集めたもの凄いやつだ。自信を持って誇りに思える特A級の品々だ。だから吉松よ。早々に俺の蔵書を受け取ってくれ。死ぬ前に処分し忘れた。やばい家族に見つかったらやばい、特に妹だけは絶対だめ、と慌てているわけじゃないことを重々承知されたし。
また、俺が撮りためた四〇〇枚もの九条愛さんの写真もお前に譲渡する。大事にしてやってくれ。
ひとつだけ心残りなのが、お前が無理やり予約した梶原精神クリニックの予定をすっぽかしてしまうことだ。梶原先生にお会いしたら、すまないと伝えてくれ。それでは、俺は逝ってくる。友達でいてくれてありがとう。来世でも会おう。
津森 祐樹
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます