6通目 言うときは言う女 ビッキー(匿名希望)の手紙
恋愛の神様へ
朝夕が冷え込むようになりました。お風邪など召されていないでしょうか。
励ましのお言葉の数々、本当にありがとうございます。
あれから私はいろいろと考えました。机の椅子に姿勢を正して座り、ノートを取り出して真剣に考えました。なぜ彼はあのようなことをしたのか。時系列ごとに出来事を書き出して、事件の全貌を解明しようと努力いたしました。
しかし集中力も閃きもない私はつらつらと関係のないことを考えてしまうだけで、気が付くとジャイアンツの打順と守備陣営をノートにびっちり書き記していたのです。ああ守備がお上手で打率が高くバンドなど小技も得意な二塁手が居れば、私の中のジャイアンツは完璧なのですが。
これからクライマックスシリーズが始まります。がんばれジャイアンツ!
またもや脱線してしまいました。申し訳ございません。
何も分からない自分の不甲斐なさを悔やむばかりです。もし私が武士であったなら切腹をしていたことでしょう。しかし今は現代。自分の不甲斐なさを腹を切って逃げられる時代ではないのです。ですから恥を忍んでお尋ねします。
これから書き連ねる彼の行動の真意を教えていただけないでしょうか。
ある日のことです。
帰宅中、私は背後に何か気配を感じていました。
その時は気のせいで済ませたのですが、次の日も、また次の日もそのような気配を感じていたのです。そこで私はぴんと閃いたのです。
これが守護霊というものなのか、と。
ご先祖様がありがたく私を見守ってくれている!
そう思うと先祖に恥じぬよう生きていこうと胸を張って歩くようになりました。
しかしそのことを友達に話すと、友達は驚愕するのです。
そして「今日から、皆で送ろうか?」と私を心配している模様でした。何を心配しているんだろうと不思議に思いつつも「大丈夫だよ」と友達の親切を断りました。
今思えばなんて阿呆な考えだったのかと反省するばかりです。
そして放課後。やはり背後から気配がするのです。そしてその気配は、背後霊などの霊的な気配ではなく、足音だとか物理的な気配であることに気が付きました。もしや……誰かにつけられていると。
そう意識してしまうと、急に膝が震えだしたのです。震えをこらえ早足にすると。後ろの気配も同じく早足になるのです。正直、怖くて怖くて仕方ありませんでした。
私は急いで路地を曲がり物陰へ隠れました。助けて、助けて、と神様に祈りました。すると続いて路地を曲がって来た人物は、なんと彼だったのです。
なんで彼が? とぽかんとなりました。
彼はきょろきょろと辺りを見回して、私が居ないと悟ると、ポリポリと頭をかきました。
なんだよかった、と思う反面、少し頭にきたのです。ここはひとこと言ってやろうと思って、立ち上がりました。いつも頼りのないと思われている私は言うときは言う女なんだぞと示すために、声をめいいっぱい低くして「何をされているのでしょうか」と彼に尋ねたのです。
振り返った彼は心底焦ったような声を出して、腰くらいの高さに手のひらを添えて、「ここにこれくらいの少女が居ませんでした?」と言ったのです。
え? と一気に肩の力が抜けました。
私の勘違いだったんですね、と恥ずかしくなって、顔が熱くなることを感じたのです。
そこで誤魔化すように、その少女がどうされたのですか、などお話しました。何やら、その少女は世界を救う鍵なんだそうで、彼はとても焦っている様子でした。
なんだ、勘違いだったんだ、そう胸を撫でているときでした。
突如、聞き馴染みのない怒号が響いたのです。恫喝に近い大声で、何やってんだ、とわたしの方へ叫ぶ方がいたのです。
そこには、以前私に交際を申し込んできた方が立っていました。
その方の目には筆舌にし難い凶悪なものが宿っているように見えました。そして、その方は唾を飛ばしながら私を罵倒してきたのです。「なんで他の男と話している」「お前は俺の女だろ」「登下校は俺が送ってやっているじゃないか」そのようなことを言っていた気がします。
私は余りにも恐ろしくなりました。断ったはずなのに交際していることになっていること、なぜこんなに怒っていらっしゃるのか分からなかったこと、いろんなことが分からなくて、勝手な言い分に体中が委縮してしまいました。
怖い、と、そう呟いてしまったときです。
すると、彼が動いたのです。その方に近づいていき、危ないですよ、と叫ぼうとしたときでした。次の瞬間、彼はその方の頬を思いっきり殴っていたのです。殴られた方は壁に頭を打ち付けて意識を失いました。
彼は何か私に声を掛けてくるのですが私は目の前で起こったことが整理しきれず、放心してしまいました。
そして、なぜ暴力を振るったのでしょう、と彼に聞いていたのです。
なぜ暴力に頼ることがあったのでしょうか。言葉では分かり合えなかったのでしょうか。彼は花を愛でていたこともあって、他の男性と違うかもしれない、と少しばかりの期待がありました。ああ、彼も暴力を振るうんだ、そう思うとなぜか悲しくなってしまったのです。
その時、私ははっきりと「顔も見たくありません!」と言ってしまっていました。
今思えば、大変後悔しています。なぜ、彼は暴力を振るったのか、このときゆっくり彼に直接聞けばよかった。自分で勝手に期待して絶望して拒絶するなんて、自分勝手もほどがあります。
これ以降、彼をクラスで見かけるたび、話しかけられずにいます。助けてもらったのに、ありがとうも言えていません。
やはり私が間違っていたのでしょうか。素直に彼に謝ったほうがよろしいのでしょうか。アドバイス頂けると本当に嬉しく思います。
かしこ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます