3通目 迷走恋愛機関 津森祐樹の手紙

 前略 ゴッド オブ ラブ


 へいへいへいへい吉松さんよ! 本当にお前は神なのか!

 お前の言う通り、クラスの花が枯れそうな日に誰よりも早く登校して花を代えよという指令に従ったら、彼女が来たではないか! そして彼女とそのまま語り合うことができたぞおい。


 朝から花を摘んでいる最中は訳がわからず、ただただの草むしりをさせられているのではないかと何度もお前を疑ったが杞憂だった。疑ってすまなかった。

 で? この話、聞きたいか? 聞きたいだろう? 仕方ない。


 花を活ける俺を一目見た彼女のその瞳は羨望の眼差しに変わっていた。きっと思ったのだろう。素敵と。武骨な外面とは裏腹に内面はきっと優しく、前世は民衆の為に尽くした小国の王なのではないかと。

 そこで彼女は話しかけずにはいられなかったのだろうな。何をしていらっしゃるのですか、と彼女の声は清流のように清々しく、小鳥の囀りのように軽やかだった。

 俺は高鳴る鼓動を抑えながら武士が捨て台詞を吐くように渋く答えてやった。

 それから俺は彼女と話をした。あんなに弾んだ彼女の声は聴いたことがない。

 そこで俺は気が付いたのだ。彼女の瞳がハートの形になっていることを!


 しかし、俺はここで先走るような阿呆ではなかった。ゆっくり心の距離を埋め、互いが互いを必要不可欠な存在になり、最終的に俺たちは結ばれる。

 そしてその祈願の成就は近いに違いない!

 はっはっは。これでお前への相談なんぞ頼らなくてすむ。彼女と結ばれたあかつきには、自伝本を出版し、印税で彼女と子供二人と悠悠自適に暮らそうと思う。俺の将来はバラ色だ。


 あとこれだけは書いておくぞ。俺はストーカーじゃない。

 何が、アドバイスその一、精神科を受診しましょうだ。何が、詳しすぎて引いたわーだ。ただただ俺は彼女を愛しているだけだ。

 それに警察に通報するとは何事か。文面から俺への軽蔑が滲み出ていたぞ。便箋もわずかに紫がかっていると錯覚してしまうほどだ。ちょっと会わないうちに性格が歪んだか? 今のお前は人類皆犯罪者に見えるのだろうな。どうした。悩みがあるなら恋愛マスターの俺に相談でもしてみろよ。へいへい吉松さんよ。


 真面目なことを書こう。

 恋愛という男と女の真剣勝負を制するために、SNSの随時監視はあたりまえだ。

 ストーカーで思い出したのだか、最近彼女が誰かにつけられていると物騒なことを言っていた。そんな頭がトチ狂った輩には俺の鉄拳制裁を加えてやろう。彼女を守るのは俺だ。彼女を守った後、俺は道端に倒れこんだ彼女に言うのだ。これからも君を守りたい、と。


 なぜだろう。まだ返信を貰ってもいないのに、お前の冷笑が記されている気がする。気に食わないのでバナナの皮を同封しておく。


 追伸 お前からの、女心を理解するために恋愛神様の代筆をやらないかという申し入れは丁重に断らせてくれ。なるほど妙案だが、お前の魂胆は目に見えている。飽きたんだろ? お前はすぐそういうことを押し付けようとしてくる。自分の器を超えることをするからこうなるのだ。精々反省したまえ。

                                   草々

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