2通目 男性への畏怖と興味 ビッキー(匿名希望)の手紙

 恋愛神様へ


 彼岸花が咲き、暑さの終わりを告げようとしています。

 いかがお過ごしでしょうか。


 お返事ありがとうございます。なかなかお返事頂けなかったので本日自宅のポストにあなた様の返信が入っていたときの衝撃といえば、逆転サヨナラ満塁ホームランを見てしまったような気持ちでした。


 男性が苦手なんです、という突拍子もない相談では、もしかするとお返事はいただけないかもしれないと思っていました。恋愛神様に相談すべき内容ではなかったのでは、と。しかし男女の酸いも甘いも熟知されているだろう恋愛神様なら、私の抱くこの感情に答えを見いだしていただけるかも、と思ってしまったのです。


 繰り返しになりますが、お返事いただき本当にありがとうございました。あなた様からの、なぜ男性が毛嫌いするのかというご質問にお答えしますと、私は男性を毛嫌いしている訳ではないのです。ただただ、何を考えているのか全く分からないのです。


 私は昔から「抜けている」と言われてきました。確かに、目が垂れた、頼りのない顔をしています。早口で喋られませんし、手元が当たって消しゴムもよく落とします。ですが、それだけの理由で、書道をしてそう、華道をしていた、日本舞踊を嗜んでそう、と男性は私を色眼鏡で見てくるのです。それだけではなく、一人じゃ不安だから家まで送ろう、など私を過保護にしてくる理由もよく分かりません。きわめ付けは「君を守りたい」という言葉でよく交際を申し込まれるのですが、そんなに私は頼りないのでしょうか。

 なぜ、そのような思考に至るのか分からないのです。実際の私は、弟から「親父くさい」とよく言われます。私の趣味はプロ野球で、六時から始まるCS放送をコーラを嗜みながら観戦すること生きがいの親父くさい女子が私なのでございます。

 野球選手に対しては苦手意識を持つどころか、腕の筋肉のスジに少し胸が高鳴ってしまうことから考えると、別に男性を毛嫌いしているという訳ではないと思うのです。ただただ何を考えているか皆目見当が付かなくて、怖い、と感じているのだと思うのです。言うなればカブトムシがいつ羽を広げてこちらに飛んでくるか想像できない恐怖に似ています。


 恋愛神様からの「なんでも相談せよ」というお言葉、大変心強く感じます。ならばひとつ教えて頂きたいことがございます。


 以前の話になります。不思議なことが起きたのです。私は「自分ルール」というものを自身に課しています。そのひとつにクラスの花が枯れそうになったら取り替える、というものがございます。

 ある朝信じられないことがありました。

 お花を活け直そうと早くに登校すると、クラスメイトの男の子が花を取り替えていたのです!

 お恥ずかしい話ですが、このときの私は目が点になっていたことでしょう。まるで埴輪みたく二つの穴ぼこのような目になっていたに違いありません。

 武骨な拳に握られた花々は、さながら巨人の手で捕らえられた人間のようでした。そこで私は勇気をもって声を掛けたのです。何をされているのでしょうか、と。声は震えていたと思います。

 そして彼は「花を活けているのです」と答えたのです。地響きのような声で思わず震え上がりそうになりました。私は自分の目が泳いでいることを感じました。彼はなぜ、このような行動を取っているのか訳が分からないのです。

 小学のとき、男子が彼岸花を傘で薙ぎ払っているところに遭遇したことがあります。なんて攻撃的な方々なのでしょう、と口を覆ったものです。あのころから、男性に花を愛でる気持ちなんて微塵もなく、万物は食用か否か、くらいの認識で生きていると勝手に思い込んでいたのです。


 ですが彼はどうでしょう。

 花瓶を洗い、新しい花々を活け直していたのです。

 私は自分があまりにも無知だったと恥ずかしくなりました。もしかすると、男性にも花を愛でる心があるかもしれない、とそのとき知ったのです。

 しかし私はその事実に対して疑心暗鬼でした。

 それから彼とは少しばかりお話をさせて頂きました。

 彼はとても楽しそうにお話してくれたのですが、彼を見定めようとする私がいて、失礼ながら上の空だったと思います。きっと声色にも表れていたことでしょう。今思えば、とても失礼なことをしてしまったと深く反省しています。

 だから教えてください。彼はなぜ花を活けなおしていたのでしょうか。

 私は今まで男性を誤解していただけではないのでしょうか。

 どうかこのような無知な私ですが、お答え頂けると幸いです。


                                  かしこ

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