それは燃え盛る炎のように、この身を焦がして。

 火事と喧嘩は江戸の華。この作品は、まさに江戸の火事を扱った作品である。呉服屋に嫁いだ弥生は、ただ、想いの人に再会するために、店の裏口に放火する。江戸時代、放火は大罪だった。それでも、弥生は想いの人の元へ急ぐ。ここまでは江戸を舞台にした「お七」の昔話を彷彿とさせるだろう。
 しかし、この物語はさらに思わぬ展開を見せる。
 弥生は想い人と文を交わし、言葉を交わし、両想いだと信じていた。
 呉服屋に望まぬ輿入れをしたときも、お互いにお互いを好いていたと思い込んで、疑いもしなかった。しかし、弥生の想い人の心の中にいたのは、別の女性だった。いや、ある別の意味で、想い人は弥生のことを想っていただろう。

 纏を揺らして、江戸は燃える。
 弥生は想いの人に恋い焦がれる。
 しかし想いの人が携えていたのは、狂気――。

 最後には背筋がゾクゾクする展開が待っている。

 是非、御一読下さい。

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