【実体験】霊感の強い兄が酔った勢いで地縛霊を説得してみた話

べつ

霊感の強い兄が酔った勢いで地縛霊を説得してみた話

 どうもべつです。


 このあいだ久しぶりに兄と酒を飲んでいたら昔の恐怖体験を思い出したのでせっかくなので紹介します。

 私は全く霊感などないのですが、対して兄は昔から霊感が強く、しょっちゅう金縛りにあっていました。

 霊感が強い人がいるとその能力が移るとか聞きますが、約十八年間、実家という一つ屋根の下で暮らしましたがいまも全くその様子はありません。


 そもそも私の兄とは現在身長186cm。(ちなみに私は160cm)出生体重は4,500gと完全なる巨大児で生まれ、その後もすくすくと育ち、小学校卒業時には170cmを超えていたビックボーイでした。


 生まれた時から周りの子と頭二つ分くらいの体格差があったので、もちろん幼稚園で子供同士がケンカすると兄が圧勝します。

 それを見かねた母親が力では同級生に勝ってしまう、つまりを怪我させてしまう、なのでお前から絶対に人様に手をあげるんじゃない!と教育という洗脳で兄の力をねじ伏せました。


洗脳のおかけで兄は小学生になっても女の子に泣かされて帰ってくるような優しい巨人になりました。


そして当然のごとく妹の私にもナメられるようになりました。


よく優しい人につけ込んで霊が付いてくるとありますが、兄はまさしくその典型だったのだと思います。


 そんな兄が就職して、先に実家を出て地元で一人暮らしを始めました。

翌年、年子だった私も早々と就職が決まり、早めの春休みになっていました。

まだ寒さが厳しい春の訪れ前に兄から一本の電話が入ったのでした。


※ではここからは台詞が多いので、チャット形式でお楽しみください。


兄:「妹よ、兄ちゃんに一生のお願いだ!引っ越しの手伝いをしてくれ」


 兄弟がいると、一生にお願いを何度も経験します。


私:「やだ」


兄:「五千円でどうだ」


私:「向かいます」


 妹はこうして引っ越しを手伝う事になりました。


寒さが厳しく乾燥した季節だというのに、兄のアパートはいつもじめじめしていて湿っぽかった印象がありました。

玄関がいつも日陰のせいなのか通路の角には大量の苔が生えていて、一階の角部屋、1DK8畳の部屋は日当たりが悪く、キッチンは昼間でも電気を点けないといけなかったし、夏でもどこかヒンヤリと地下にいるような空気感がありました。この広さの割に安いだけはある。そんな安アパートでした。


 夕方の四時。兄の部屋につくと、部屋はとりあえず、とてつもなく散らかっていました。足の踏み場がない。汚い。これが巨人、ではなく男の一人暮らしの実態でした。


私:「え、泥棒入った?」


兄:「いや、いつも通りだ!問題ない」


 部屋の中央にこたつテーブルがあり向かいに布団やソファ、反対側にはテレビ。漫画がぐちゃぐちゃに入った本棚が壁の側面を埋め尽くし、これらが主にスペースを取っておりその隙間に雑誌だの脱いだ服などが散らばり、畳が見えませんでした。

 とりあえず日当五千円があるので私は真面目に片付けました。ゴミを分別し、大抵のものは捨てた。収集癖のある兄の部屋は私からすると大体がゴミでした。

畳が見えるようになる頃には外はすっかり暗くなっていました。


 和室の部屋にはドラえもんが住み着いているような押入れもあり、次はここか、と手をかけたその時です。


兄:「ちょっと、そこは待て!!」


 珍しく兄が声を上げた。


私:「は?なんで」


兄:「暗くなってきたから……そこは明日にしよう」


私:「いや、今日で終わらせたいんだけど」


兄:「そこは後回しにしよう」


私:「じゃあ、自分でやりなよ」


兄:「いや、一緒にやろう」


私:「結局やるなら今がいいじゃん」


兄:「ダメなんだって、!」


 意味がわからない。

 とりあえず焦り出す兄。


私:「なに?エロ本かよ」


兄:「いや、お兄ちゃんはWEBで観る派だから大丈夫だ」


私:「その情報はいらねぇわ」


 あまりにも頑ななので、面倒になった私は別の場所を片付けることにしました。

 計六袋のゴミ袋を出し、食器や大量の漫画を段ボールに詰めると部屋は本来の広さを取り戻していきました。兄のおごりでコンビニ弁当を買い、食べ始めた頃には深夜零時の少し手前だったと思います。

 三交代勤務の兄とすっかり春休み気分の妹の昼夜はすでにひっくり返っていたのでちっとも眠くはありませんでした。


私:「とりあえずこんなもんでしょ」


兄:「妹よ、お兄ちゃんは助かった」


 今日はここまで、とテレビをつけ、狭いコタツテーブルに揃って弁当を食べ始めました。

古い建物で外の風で壁がギシギシと音を立てた。どうやらアパートは木造住宅のようです。


するとチカチカと蛍光灯が瞬きをした。

兄が箸を止める。


私:「あれ、これ電気切れかけてるんじゃないの?」


兄:「……妹よ、お兄ちゃんはちょっと酒飲むぞ」


私:「え、今から?」


兄:「お前も飲め!」


私:「は?やだよ、帰るし」


兄:「今晩は泊まっていきなさい」


私:「いや、帰るよ」


兄はそういうとごくごくと一人でウィスキーを飲み始めた。

そこからどんどん不思議な現象が起き始めるのです。


蛍光灯の散らつきがだんだん大きくなって、地デジであるテレビがどこか接触不良が起きているような具合で画面がブレ始めたのです。


兄:「またアイツが来た・・・」


 兄は酒を片手に落ち込んでいた。


私:「どしたの?」


 私には何もわからない。


兄:「実はな、押入れにいるんだよ」


 突然兄はひそひそ声で話し始めた。


私:「何が?」


兄:「……多分」


私:「多分?」


兄:「多分…………おばけ」


私:「はぁ?」


兄:「いやいや、これがマジなんだって」


 兄は酒を飲み続けた。どうやら怖さを酔いでごまかしたいらしい。思わず自分もひそひそ声になる。


私:「見たの?」


兄:「お兄ちゃん、怖くて見れないよ」


私:「じゃぁなんでわかんのよ」


兄:「気配でわかるんだよ」


 パチン―—。


 台所で何かが弾ける音が聞こえた。


 兄妹で目を合わせる。


私:「これって……」


兄:「ラップ音です」


私:「お前、ふざけんなよ」


兄にキレる妹。とりあえず手元にあるテレビのリモコンを叩きつけられる兄。


兄:「止めてよ!お兄ちゃんは何も悪くないじゃん」


 世の中の兄はなんとも妹に弱い。


私:「何かして来たらどうすんのよ!」


兄:「大丈夫だ!あいつはあの押入れに居座るだけだから」


私:「それって地縛霊じゃん!何ここ事故物件だったの?」


兄:「違うよ、俺が来てから来たんだもん」


 だもん。って。

 酒が進む兄。


私:「何とかしてよ、怖いじゃん」


兄:「何とかって、お兄ちゃんは半年もこんな状態なんだぞ!!」


私:「知らないよ!付き合い長いんだから何とかして」


兄:「お前、無理言うなよ!お兄ちゃん泣くぞ!」


 妹の我儘にたいてい世の兄は振り回されていると思う。

 パチン―—。

 台所か、この部屋か分からないくらい大きなラップ音がなり、


 ガサガサ―—。

 キッチンの隅で積み重ねていたゴミ袋が崩れた。


 二人は黙って崩れ落ちゆくゴミ袋を見つめた。


 いくら何でも怖すぎる。


 蛍光灯はいつまでたってもチカチカしている。

 怖くてテレビの音量を上げる。

 兄は酒をあおる。

 電気をいくら付け直してもチカチカは直らない。

 兄は酒をあおる。

 私はいよいよ怖くなると兄に八つ当たりをした。


私:「何とかしてよ、今すぐ!!」


兄:「やだよぉ、今晩、金縛りコースになっちゃうよぉ」


私:「オプションみたいに言ってんじゃねぇよ」


兄:「お兄ちゃんは、あいつが来てからずっと金縛りなんだぞぉ」


私:「めっちゃ取り憑かれてんじゃん!絶対あんた狙いだよそれ!」


兄:「嘘だろー!お兄ちゃんはどうすればいいんだ!?」


私:「出て行くように説得しな!!じゃないと引越し先にも付いて来ちゃうよ」


 要は自分が対峙したくないのだ。

兄は私と二人でいるせいか、ただ単に酔っているせいか、いつもより気が大きくなっていました。

さらに酒を煽り、ウィスキー瓶を空にすると兄はスッと立ち上がった。

そして、押入れの襖を思いっきり開け、


私:「え、なにして……」


兄:「おい、小林!!お前いいかげにしろよ!」


 兄は怒鳴った。荷物のたくさん詰まった押入れに向かって。


兄:「俺のこともちょっとは考えろ!小林!」


兄:「小林それでいいのか!?」


兄:「それでいいのか小林ぃ!!!!」


 部屋にはテレビの音だけが流れた。アパートは風で軋み、自分の兄は襖に向かって大真面目に怒鳴っている。

 この光景に、シラフの妹は違う意味で怖くなった。


私:「いや、小林って誰だよ?」


兄:「お兄ちゃんが命名した、おばけの名前だ」


私:「苗字で呼ぶんだね」


兄:「こいつおっさんだしな」


私:「え、そこまでわかんの!?」


兄:「付き合い長いからな」


 気づけば兄は相当酔っていた。


兄:「小林!!俺は引っ越すからな!絶対ついてくんなよ!!お前、いい加減にしとけよ!!」


そういって兄はピシャリと襖を閉めた。ビビった兄は次に、笑い始めた。それを見たシラフの妹は小林よりも兄の方が恐ろしかった。沈黙した部屋の中に酔っぱらいの笑い声だけが響いた。


 不思議なもので本当にそれから蛍光灯がまともになり、ラップ音が消えた。酔いの回った兄はこたつで寝始め、何度起こしても起きないので一人になるのが怖くて仕方なく私はそのまま一泊した。


翌朝———。

兄:「小林、逝ったな」


 昼過ぎに起きた兄の第一声だった。

 どうやら兄は小林の説得に成功したらしい。


 話を聞くと、小林のおっさんはいつも押入れの隅でいじけていて、兄が寝始めると金縛りになって足や手を掴んでイタズラをする人だったらしいです。気配を知りつつ知らぬふりをしていたら付け込まれ長居され、昨日の初めて強気な態度で怒鳴り散らしたら小林はビビってどこか違うところへ行ってしまった。

と言うのが兄の見解でした。


確かにそれから兄は金縛りになっていないようです。優しさに霊がつけ込んでくると言うのは本当でした。


兄:「妹よ、今日は押入れを片付けよう」


私:「絶対やだよ」


兄:「一生のお願いだ」


私:「ムリ。気持ち悪い」


兄:「一万出す!」


私:「取り掛かろう」


 こうして無事に兄は引っ越していきました。


 意外に兄と似た体験をした!というお話をよく聞きました。もし取り憑かれて困っている人がいましたら、是非大声で説得してみてください。ナメられたら、くっついて来ますよ。

引くな!ビビるな!ビビらせろ!です。


以上。私の残念な兄の話でした。

しょうもない話を最後までお読み頂きありがとうございます。

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