11/ブレイブソードストーリー
ルカの死から半月――わたしはカオカの村を見下ろす丘に立っていた。何もかもが紫色の泥に押し潰された窪地を村と言って良いのであれば、だが。
「ルカが戦った場所を一度見ておきたいと思ったんだ」
「あたしたちもまあまあ大変だったけど、ルカはルカでたいへんだったんだね」
「そういう男ですよ。涼しい顔していつも自分に一番損な役を割り振る」
「あのー、本人の前でそういうことを言われるとまあまあいたたまれないんですが」
わたしたちの少し後ろに立っていたルカが気恥ずかしそうに言った。
「そろそろ教えてくださいよ。どうしてぼくは生きてここにいるんですか? 処刑は執行されてないんですか?」
「まだ思い出せないのか」
バイケンが鼻を鳴らして言った。
「俺が貴様に果物を渡したのは覚えていないか?」
「俺……? ひょっとして監獄でぼくに水蜜桃を渡してくれたのは、バイケンさんだったの?」
「気づいてなかったのか。昔の伝手を頼って本物の刑吏とすり替わったのさ」
「果物の中にはわたしが呪文書を仕込んでおいた。もちろん仮死の呪文を封じたものだ。君はそれを読んでかりそめの死を得た。呪文書に封じると効果が弱くなると聞いていたから、少し強いやつにしたんだが、おかげで前後の記憶が曖昧になってしまったようだね」
「処刑は中止となり、ルカは埋葬されましたた。それをあたしたちで掘り起こして、ここまで連れて来ましたとさ。めでたしめでたし」
「とてもめでたしとは言えない状況だけどね。我々は揃ってお尋ね者だ」
「それもこれも全部貴様のせいだぞ。なのに一人だけ足抜けしようとしやがって」
「すいません」
「謝る気持ちがあるなら俺と決闘しろ。体力が回復したらすぐにでも」
ルカは曖昧なうなずきでバイケンの求めをかわすと、わたしたちと同じに崩壊した村を見下ろした。
「魔王を倒すためとは言え、多くの犠牲を出してしまいました」
「……君だって村人を助けるために頑張っていたことは知っている。誰も君を責めたりはしない」
「その通りだ。第一、私たちを勝手に殺すな」
はっとして振り返るとそこに我々の見習い騎士とよく似た顔立ちの美人が立っていた。
「ルカ、お前が寄越した避難計画書、十年以上も昔の情報を前提としたものだったから、現況との擦り合わせに難儀したぞ。まあ、それでも人的被害は皆無だったことについてはお前の手柄と言っても良いのかも知れんな」
面倒くさい態度で面倒くさいことを言う姉に対して、ルカの行動は今までに見たことがないくらい直線的だった。
「姉上! 生きていたんですね!」
「ばっ馬鹿! 人前で姉と呼ぶな! ええい、うっとうしい。くっつくな! わたしから離れろ!」
真っ赤になる姉を、しかしルカは強く抱きしめて離さない。その顔には、春になると咲き誇る
――何だ。君だって、そういう笑い方ができるんじゃないか。【了】
虐殺騎士ルカ・ブラントの最期 mikio@暗黒青春ミステリー書く人 @mikio
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