ナイン・サウザンド 

仁野久洋

「ルヴァ」

 がこん、と開け放たれた大きな扉に、しょんぼりと肩を落とした“巨人”が、どしん、どしん、と大地を震わせ、とぼとぼと入ってゆく。


 腰まである銀色の髪が、ぷるぷると震えている。人間スケールに換算すれば、相当に細くて華奢な背中や腰のくびれ、そして、かわいらしいお尻や、白銀のブーツに包まれたすらりと長い足までが、何かに堪えるように全て震えていた。


 巨人の名は『ルヴァ』といった。


「泣かないで、ルヴァ。僕は、いつかきっと、またきみの前に現れる。何百年、何千年後になろうとも……僕は――」


 悲しみに暮れるルヴァの背中へ、優しげな男の声がかけられた。


「僕は――」


 男の惜別を断ち切るように、巨大な扉が、重々しい音を立てて閉じた。

 ルヴァに、真の闇が訪れる。

 ルヴァは、次の命令があるまで、もうここから出られない。


「僕は――」

 

 直後、ルヴァは、この後の言葉が思い出せなくなった。


 とても大事な、絶対に忘れてはいけない言葉だったはずなのに。

 どうやら、主に『封印』を施されてしまったらしい。

 ルヴァはメモリを何度も何度も検索しながら、そう結論つけた。


 そして、永い、永い眠りについた。

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