第8話
「派閥の新入りを、目通りに。エル・ジェレフ、
イェズラムが
まさか族長と直に話すことになると、想像していなかったのか、ジェレフは舌を忘れてきたように、いっとき口ごもった。
「お目通りがかない、光栄です。ジェレフと申します、
それでもジェレフはやがて、
「初めて見る顔か。俺は共に戦った英雄たちは、全て憶えているつもりなのだが。お前の
「はい」
微笑して話してくるリューズに、ジェレフは
その姿を見て、リューズがこっそりと苦笑をイェズラムに向けてきた。この
「そいつは
リューズを
「治癒者か」
納得したふうに、リューズは
それは問いかけだったので、ジェレフはなんとか、素知らぬ顔のシャロームから目を戻し、族長に、はいと答えた。その声はどことなく上の空だった。
「エル・ジェレフ。俺は治癒者が嫌いだ。それがなぜか、お前は知っているか」
聞き違えようもない、あからさまな拒否を、リューズに笑いながら言われて、ジェレフは衝撃の顔をした。それはそうだろう、有り難く拝んだ相手から、お前が嫌いだと通告されては、こいつも困るだろう。
「存じません……なにか失礼を、いたしましたでしょうか」
ジェレフは立っていたら、よろめいていただろうと思えるような、落胆の声で答えていた。リューズは治癒者全般が嫌いだと言ったのだが、ジェレフにはそれが、自分自身への嫌悪と思えたのだろう。それはそれで、自意識の強いことだった。
「いいや、お前のことは今の今まで知らなかった。だからお前のことは嫌いではない。俺が治癒者を嫌うのは、先代の族長だった父に仕えた
リューズに説明されて、ジェレフは
治癒者であればシェラジムの名は、知らぬわけがない。治癒者でなくても、リューズが即位する以前の宮廷を見知っている者であれば、シェラジムのことは、その不戦という
イェズラムにとっては、シェラジムは赤の他人ではなかった。彼は先代の
彼の死を
それは、自決する前のシェラジム本人に
しかしリューズは、父親を
それでシェラジムに頼まれるまま、自分が引き受けたのだ。
先代は治世において、シェラジムの
そして一事が万事、先代は、シェラジムはどう思うか、どう思うかと、人目も
リューズはそんな父親を、
主体性に欠ける
あの当事を生きた魔法戦士の中には、治癒術をあえて
イェズラムは自らの治癒術を
別に見捨ててもよかった。火炎術士として働くことで、
しかし放っておけば死ぬものを、見捨てていくにしては、自分はまだまだ、やわだったのだ。
炎の蛇は隠れ治癒者と、古くから派閥いる者たちは、皆知っている。それを恩義に思って、いまだに裏切らぬ者たちも、少なくはない。
だがもう、そんな、治癒者がどこでも
「シェラジムはな、今にして思えば、そう悪いやつではなかったのだ。悪かったのは恐らく、俺の父のほうだろう」
困り切って聞いているジェレフを、リューズは面白そうに笑って見ていた。
「父上は決断するのが苦手なお方だったらしくてな、
リューズが教えている話は、伝聞だった。シェラジムが御意のままにと答えることは、イェズラムが教えた。リューズは兄アズレルに締め出され、
しかし最後にジェレフに話した
「シェラジムはおそらく、父上があまりに気弱なので、心配でたまらず、隣に座していたのだろう。励ますためにだな。そうでないと、父上は、玉座に座っていることもできなかったのだろう。そういう気分は、俺にも分かる。玉座から見下ろす
そう言って、リューズはイェズラムにまた、苦笑を見せた。こちらがその話に、
だがリューズは全くこちらの無言の制止に
「だがな、お前たちの
リューズが目を覆って
「そのお陰で俺は今のところ、少なくとも
にこやかに
ジェレフは恐縮して、
リューズ、お前は、他人に説教をできるような立場かと、イェズラムは内心思った。それが顔に出ていたらしく、こちらに目を向けたリューズが、ふざけているのか、
「怖いなあ、シャローム。イェズラムが俺を
「俺に話を振らないでくれ。とばっちりで
降りかかる火の粉を払うように、シャロームは顔の前で手をぶんぶん振ってみせていた。リューズはそれに、楽しげな笑い声をあげた。
「
まだやっていたのかお前らは。イェズラムはあきれ果てて、
呼ばれたジェレフが、行くべきなのかどうかという戸惑う顔で、こちらを見た。
もちろん行くべきだろう。族長が呼び寄せているのを、わざわざ戸口で拒む理由もない。
「イェズラム、お前も忙しいのだろうが、たまには付き合ってゆけよ。一緒に
ねだる口調のリューズに、イェズラムは苦笑して、首を横に振った。戸口が好きなわけではない。
シャロームはリューズの右隣をイェズラムに
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