主人公チェントが過去をふりかえる形で物語が進みます。冒頭はチェントの幼少時代から始まり、チェントという人物像、そして兄との関係性や環境がわかります。ここで物語を引き立てる重要な人物たちも登場しますがそれは後の話です。序盤の兄妹の様子は読者によって読み方が変わるかもしれません。
そして序盤の流れが途切れぬまま、物語は一つの区切りを迎え、新たな環境のなかでチェントの変化・成長が描かれており、ここから風向きが変わり始めます。序盤で兄妹の関係性を見せておき、中盤からは様々な出会いを経てストーリーに厚みが加わります。
ファンタジーにおいて、主人公の成長がこんなに悲しくなる物語は他に無いと思います。彼女の本性は私には断言できませんが、強くなるしかなかったのだと考えています。能動的に剣を振っていますが、何かが違えばこうはならなかったと思いました。彼女の心境の変化と人間関係にも注目してください。
兄妹に焦点を当てた妹視点の話ですが、彼女の耳を通して兄や周囲の人物たちの気持ちを読むことが大事だと思います。また、小説として上手いと思った理由の一つに独白形式であることがあげられます。節目に自然と「その後」を匂わせることで読者は惹き付けられます。
タイトルを読むと「復讐」という単語が出ていますが、実態は二文字でまとめることの出来ない感情で満たされています。実際に読み終わったとき、幸福感と悲壮感……他色とりどりの感情が胸を満たします。
この作品の素晴らしいところは、キャラクターの造形だと思います。それぞれのキャラクターが丁度良い魅力を持ち、無駄に輝きを見せていないので、「くどいな」と思うことはありませんでした。主人公が活躍するので読んでいて楽しい、というのもありますが、話の構造、キャラクター同士の関係性などのバランスが絶妙に保たれているのが、読んでいて楽しい、もっと読みたいと感じた一因だと思います。
先に申しますが、望まないのであれば以降は読まないでください。私が抱いた、この作品の改善点です。お気を悪くされるかもしれないので。ネタバレも含みます
まず、主人公が血を嫌わずに敵を斬っていくのに違和感を覚えました。幼少期に兄からの暴力を受けていれば、少なからず、自分から与える暴力に対しても嫌悪感を抱くものと思われます。それを短期間の修行、それも人間ではない獣を斬ることで、躊躇せずに人間を殺していくのは都合がいいのではないかと思います。
次に、主人公が戦闘と周囲の人間以外に、全くと言っていいほど興味を示さない点です。もっと掘り下げれば作品の深み(?)が出るのに、という私の願望かもしれませんが、いささか主人公が戦闘狂すぎるように感じました。ネモに対して絶大な信頼と好意を寄せているとはいえ、もう少し戦闘に関連しない描写があってもいいのかな、と思います。その方が作品に緩急がつきますが、物語がハイスピードで進行していくのもこの作品の長所だと考えているので、その辺りは人の好みで分かれるかもしれません。
高圧的な感想で申し訳ない。ですが、できるだけ率直な感想を記した心算です。またツイッターでリプでも何でも送っていただければ、作者様の作品を読んで感想を書きたいと思います。
主人公チェントの過去の記録とその懺悔として描かれている今作は、確実に一読の価値がある名作だと思います。ラストシーンは少しインディ・○ョーンズ感があって好みではありませんでしたが、それを踏まえても良い作品だと思います。
チェントのトラウマと兄に対する復讐心が本人の視点で生々しく語られており、読んでいるこちらもそのチェントの暗い感情に引き込まれていく感覚でした。怖い怖い。
また、兄ヴィレントの秘めた苦悩もリアリティに溢れていて、それが表に現れていたシーンでは本人の視点を書かずしてここまで描き切るかと、作者様の才能と現実味を帯びさせるための知識にもはや背筋が凍る思いでした。
兄妹の憎しみと呪われた運命の物語のキーとなるのは彼女たちの感情の描写であり、作者はそれを描き切った。この事実だけで今作は名作であると言いきれるのではと私は思います。
良い読み物をありがとうごさいました。
復讐をテーマとしたダークファンタジーは、いくつも読んできたのですが、それらとの最大の差を一言で表すと、私にはひとこと紹介の通りになります。
復讐というテーマを一人称で扱うと、どうしても「これだけの酷いことをされた主人公」と「これだけの酷いことをした敵」という色分けがされてしまい、自己正当化とも取れる「だから仕方ないじゃないか」という言葉が導き出されてしまう事が多いと感じるのですが、それがありませんでした。
敵となるヴィレントは「仇役」として描かれており、また主人のチェントも人格的な問題があるように感じる点が描かれています。
行き詰まるような描写は、その双方に存在し、息苦しさを覚える事も度々ですが、最後まで読んだ時、それらの描写があるからこそ物悲しい、叙事的な余韻のあるエンディングになっていると思います。
痛快ではない、復讐の持つ負の面を描きつつ、負の面を描いたからこそ見えてくる美しい光景がある事を強く思わされました。
復讐の是非を問わない物語を書くには覚悟が必要だと思います。
覚悟のある作者の物語を、たまには走りきる勢いを持つ気持ちで読む…最高の気分です。