そばにいて、ただ、ともに歩きたい。

大学生と紀州犬が異世界転移(ぽいもの)をしてしまう、というもので、とても読みやすく安定感のある一人称の作品です。
時おり挟まる小粋なユーモアについついニヤリとしてしまいます。

犬(それも日本犬)好きには堪らない、クロの犬らしさがたいへん愛おしい。
最初の頃、言葉が通じるにもかかわらず、主人公のリク君は飼い犬のクロと上手にコミュニケーションできないのですが、犬飼い経験者的には「それ、犬だからだよッ」と画面外から声援を送りたくなってしまいます。

そんな主人公のリク君はごくごく平凡な大学生。転移した先で披露できる特技や技術などがあるわけでもなく、その世界の人々に助けられてながら謎を探ることになります。
この国は子どもたちがとてもしっかりしていて、現代日本から転移したリク君の無力さが際立ってくるのですが––––、そこで魅力なのは、どこまでも誠実なリク君の人柄です。
彼はどんな相手でも誠実に対話を求め、理解しようとし、その上でできることをしようとする。その姿勢は読んでてとても気持ちが良いです。
心中のツッコミもセンスが秀逸。

ラストは、犬を愛し共に生きた経験を持つ者であれば胸をえぐられる、そんな感動が待ち受けています。
すべての謎が明かされ、すべての役目を終えたとき、リク君だけでなくこの物語を見守ってきた読み手の側も、そのひたむきな想いに気づかせられるでしょう。

犬好きな方、SF好きな方、歴史が好きな方、ぜひご一読をオススメします。

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